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実質的存続性とは?M&A資金調達の増資で問われる裏口上場規制と東証審査の実務を解説

実質的存続性審査の二段階構造(軽微基準と詳細審査)のフロー図

実質的存続性(裏口上場規制)の東証審査の仕組みを実務経験から解説。

軽微基準と詳細審査の二段階構造・売上高等4指標の定量比較・定性面5要素・3年程度の複数取引の総合評価という審査実務・猶予期間と上場廃止リスクまで、M&A資金調達の増資を検討する上場企業向けに解説していきます。

この記事でわかること

  • 実質的存続性(裏口上場規制)の制度趣旨と根拠規程
  • 軽微基準と詳細審査の二段階構造
  • 詳細審査における定量4指標・定性5要素の判断枠組み
  • 単一取引ではなく約3年間の複数取引を総合評価する審査実務
  • 実質的存続性を喪失した場合の猶予期間と上場廃止リスク
  • 増資×M&Aの案件設計で事前に確認すべきポイント
目次

はじめに|「増資してM&A」が裏口上場を疑われるとき

M&Aの買収資金を第三者割当増資で調達する。

スモールキャップ上場企業の成長戦略として合理的な選択だが、この組み合わせには特有の規制論点が潜んでいる。

実質的存続性(いわゆる裏口上場規制)だ。

非上場会社が、新規上場審査を経ずに上場会社の「中身」を乗っ取る形で実質的に上場を果たすこと

——これを防ぐために、東証は上場会社と非上場会社との一定の取引について「上場会社が実質的な存続会社であり続けるか」を審査している。

審査の結果、実質的存続性を喪失すると認められれば、猶予期間内に新規上場審査に準じた基準に適合しない限り上場廃止となる。

「第三者割当増資の適時開示|開示タイミング・東証コメントの傾向・有価証券届出書との平仄合わせを解説」で解説した通り、発行体にとって規模の大きいM&Aを伴う増資では、東証は適時開示の事前確認の中でこの実質的存続性の観点からの確認を行ってくる。

「増資の審査」と思って準備していたら「裏口上場の審査」が始まっていた、という事態を避けるために、この規制の仕組みを正確に理解しておく必要がある。

この記事では、実質的存続性審査の枠組みと、実際の案件で検討した経験をもとにした実務上の判断ポイントを解説する。

実質的存続性とは|制度の趣旨と根拠

裏口上場を防ぐための規制

東証は、上場会社と非上場会社との一定の取引により「非上場会社の事業が上場会社の事業の主体」となり、「実質的に新規上場審査を経ずに上場を果たす結果となる」場合を防止する観点から、実質的存続性の喪失に該当するか否かを審査している(東証「不適当合併等(上場会社が実質的存続性を喪失する合併等)に係る上場廃止審査の概要」)。

新規上場には厳格な審査がある。

その審査を受けていない非上場会社が、上場会社との合併等を通じて事実上「上場企業の地位」を手に入れることを許せば、上場審査制度そのものが骨抜きになる。

これが規制の趣旨だ。

審査対象となる行為

上場廃止審査の対象となる「合併等」には、吸収合併だけでなく以下の行為が含まれる(有価証券上場規程第601条)。

  • 吸収合併
  • 会社分割による事業の承継
  • 事業の譲受け
  • 子会社化・非子会社化
  • 業務提携 等

重要なのは、M&A(株式取得による子会社化)も対象に含まれるという点だ。

「合併していないから関係ない」という理解は誤りであり、増資で調達した資金による大型買収は、まさにこの審査の射程に入る。

審査のタイミング

実質的存続性の審査は、通常、当該行為についての決定の前の時点で行われる。

つまり適時開示の事前確認のプロセスの中で、東証は増資・M&Aの内容を見ながら実質的存続性の確認を並行して進めている。

公表後に突然問題化するのではなく、公表前の事前確認段階で論点化するのが実務の実態だ。

実質的存続性審査の二段階構造

東証の実質的存続性審査は、二段階構造で行われる。

【第一段階】軽微基準への該当性
該当する → 不適当な合併等(実質的存続性の喪失)に該当しない

該当しない ↓

【第二段階】詳細審査
定量面・定性面の総合考慮により実質的存続性の有無を確認

第一段階|軽微基準

まず、取引が有価証券上場規程施行規則第601条に定める軽微基準に該当するかを確認する。

軽微基準に該当すれば、その時点で実質的存続性の問題はクリアとなり、詳細審査には進まない。

逆に言えば、軽微基準を満たさない規模・性質の取引は、詳細審査の対象になる。

発行体にとって規模の大きいM&Aや、対象会社との間で事前に業務提携等の関係がある場合は、軽微基準に該当しないと判断されるケースがある。

第二段階|詳細審査

軽微基準に該当しない場合、詳細審査に移行する。

詳細審査では、以下の要素を総合考慮し、「概して規模の大小等これらの優位性の比較」を行って実質的存続性の有無を確認する。

  1. 経営成績及び財政状態(定量面)
  2. 役員構成及び経営管理組織
  3. 株主構成
  4. 商号又は名称
  5. その他当該行為により上場会社に大きな影響を及ぼす事項

詳細審査の判断枠組み|定量4指標と定性5要素

定量面|4つの財務指標の総合比較

詳細審査の定量面では、軽微基準・詳細審査のいずれにおいても、以下の複数の財務指標を総合的に比較する実務運用がなされている。

  • A) 売上高
  • B) 総資産
  • C) 純資産
  • D) 経常利益(又はこれに準ずる利益指標)

重要なのは、特定の1指標のみが上回っていることをもって直ちに結論が左右されるのではないという点だ。

「どちらの企業が全体として事業規模・事業主体として優位か」という観点から総合的に判断される。

実際に検討した案件の構造を紹介する(個社が特定されない形に一般化している)。

上場会社である発行体が、非上場の事業会社を割当先とする第三者割当増資を実施するケースで、発行体と割当先の過去3年間の財務数値を比較したところ、売上高・総資産・純資産の3項目では発行体が上回る一方、経常利益では割当先が上回るという関係にあった。

この場合、主要4指標のうち3項目で発行体が優位という関係にあることから、「非上場会社の事業が上場会社の事業主体となるほどの規模的優位性がある」とは評価されにくく、定量面のみを理由に実質的存続性の喪失が認められる可能性は低い、という整理が可能だった。

利益で劣後していても、規模(売上・資産・純資産)で優位であれば、直ちに実質的存続性喪失とはならない

——これが「総合比較」の実務的な意味だ。

定性面|5つの要素

定量面に加えて、以下の定性面も総合的に評価される。

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要素確認の視点
役員構成取引に伴い役員変更が予定されているか(相手方の人材が経営陣の主体になるか)
経営管理組織経営管理の体制・主体が実質的に入れ替わらないか
株主構成相手方またはその関係者が支配株主となる予定がないか
商号又は名称商号変更が予定されていないか(相手方の名称に変わるか)
その他の影響事項既存事業の切り離しや、事業の主体が実質的に転換するような追加取引、非上場会社が実質的に上場会社を支配する状況の有無

割当先が増資後に筆頭株主になり得るケースであっても、支配株主(議決権の過半数保有等)となる予定がなく、役員変更・商号変更も予定されていなければ、定性面から実質的存続性の喪失を基礎づける事情は存在しない、という評価が成り立ち得る。

割当先の投資目的(純投資か経営権目的か)の事前確認が重要になるのは、この定性評価に直結するからでもある。

見落とされがちな2つの実務論点

制度の枠組み以上に重要なのが、実際の検討過程で判明した以下の2つの実務論点だ。

①審査は単一取引ではなく「約3年間の複数取引」を総合評価する

東証の実質的存続性審査は、単一の取引のみならず、一定期間(通常は3年程度)に行われた複数の行為を総合評価する実務で運用されている。

つまり「今回の増資だけを見ればセーフ」という判断では足りない。

過去に同じ相手と業務提携を締結している、段階的に出資を受けている、事業の一部を譲り受けている

——こうした一連の行為が累積的に評価され、全体として「事業の主体が入れ替わりつつあるのではないか」という観点から確認される。

この点は複数回増資の累積希薄化率の考え方と発想が似ている。

取引を小分けにしても、期間内の行為は合算して見られる。

将来の追加取引(第2回目の割当・追加提携等)の内容如何によっては、当初セーフだった評価が変わり得ることに留意が必要だ。

②事前に業務提携がある場合、比較対象が「会社全体」ではなく「提携事業部門」になり得る

もうひとつの重要論点は、定量比較の比較対象の単位だ。

増資に先立って割当先との間で業務提携契約(販売提携・共同研究開発等)を締結している場合、実施される取引の実態によっては、定量比較すべき対象が「発行体全体 対 割当先全体」ではなく、「発行体の当該提携事業を行う部門 対 それ以外」になる可能性がある。

会社全体の比較では発行体が優位でも、提携事業部門単位で切り出して比較すると力関係が逆転する

——このような構造の場合、別途部門別の財務指標の比較が必要になる。

提携→出資→追加出資と関係を深めていく座組みの案件では、この論点を初期段階から意識しておくべきだ。

実質的存続性を喪失した場合|猶予期間と上場廃止

猶予期間の仕組み

審査の結果、上場会社が実質的な存続会社でないと東証が認めた場合、直ちに上場廃止となるわけではない。

猶予期間の制度がある(東証「合併等による実質的存続性喪失に係る上場廃止基準」)。

  • 猶予期間:当該合併等を行った日以後最初に終了する事業年度の末日から3年を経過する日まで
  • 猶予期間内に、新規上場審査の基準に準じた基準に適合すると認められれば上場維持
  • 猶予期間内に審査申請を行わない場合、または審査の結果基準に適合しないと認められた場合は上場廃止

猶予期間入りした銘柄はその旨が投資者に周知され、猶予期間終了日に審査中の場合は監理銘柄(審査中)に指定される。

「新規上場審査に準じた審査」の重み

猶予期間内に受ける審査は、新規上場審査の基準に準じたものだ。

つまり、IPO時と同水準の審査(事業計画の合理性・コーポレートガバナンス・内部管理体制等)を、合併等の後の会社として受け直すことを意味する。

この審査対応には相応の準備・期間・費用が必要であり、審査の結果次第では上場廃止という最悪の結果もあり得る。

猶予期間入りすること自体が、株価・信用・取引関係に重大な影響を与えるため、実務上は「猶予期間入りしない案件設計」、つまり実質的存続性を喪失しない範囲での取引設計が大原則となる。

増資×M&Aの案件設計で事前に確認すべきポイント

実務経験をもとに、M&A資金調達の増資を検討する段階で確認すべき事項を整理する。

案件設計段階のチェックリスト

定量面の確認

  • 発行体と取引相手(買収対象・割当先)の売上高・総資産・純資産・経常利益を過去3年分比較した
  • 4指標の優位性の全体像を把握した(1指標の劣後のみで悲観しない・1指標の優位のみで楽観しない)
  • 業務提携がある場合、提携事業部門単位での比較の要否を検討した

定性面の確認

  • 取引後の役員構成・経営管理体制の変更予定を確認した
  • 相手方またはその関係者が支配株主となる可能性を確認した
  • 商号変更の予定の有無を確認した
  • 既存事業の切り離し等、事業主体の転換につながる追加取引の予定を確認した

時間軸の確認

  • 過去3年程度の間に同じ相手と行った取引(提携・出資等)を洗い出した
  • 将来予定している追加取引が総合評価に与える影響を検討した

社内検討用の意見書という選択肢

実質的存続性は経営の根幹(上場維持)に関わる論点であるため、該当可能性の検討結果を専門家の意見書として整理し、社内の意思決定・リスク共有に用いるという実務対応がある。

取締役会での議論の基礎資料となるほか、東証との事前確認においても、自社の整理を客観的な枠組みで説明する土台になる。

判断に迷う規模・構造の案件では、公表前のできるだけ早い段階で専門家に相談し、実質的存続性の観点からの検討を経てから案件を進めることを推奨する。

まとめ

実質的存続性(裏口上場規制)は、非上場会社が新規上場審査を経ずに上場の地位を得ることを防ぐための東証の審査制度だ。

M&A(子会社化)や業務提携も審査対象に含まれ、増資×大型M&Aの組み合わせでは適時開示の事前確認の中でこの観点からの確認が行われる。

審査は軽微基準→詳細審査の二段階で行われ、詳細審査では売上高・総資産・純資産・経常利益の4指標の総合比較と、役員構成・株主構成・商号等の定性5要素の評価が行われる。

1指標の優劣ではなく全体としての事業主体の優位性で判断される。

実務上特に重要なのは、審査が単一取引ではなく約3年間の複数取引を総合評価すること、業務提携がある場合は部門単位の比較になり得ることの2点だ。

実質的存続性を喪失すれば3年の猶予期間内に新規上場審査に準じた審査への適合が必要となり、適合しなければ上場廃止となる。

増資×M&Aを検討する発行体は、案件設計の初期段階で定量・定性・時間軸の3つの観点から該当可能性を検討し、必要に応じて専門家の意見書による整理を経てから進めるべきだ。

お問い合わせ・ご相談

実質的存続性の該当可能性の検討・社内検討用資料の作成・東証への説明準備についてのご相談は当事務所にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

FAQ(よくある質問)

実質的存続性とは何ですか?

上場会社と非上場会社との合併・子会社化・業務提携等の取引により、非上場会社の事業が上場会社の事業の主体となり、実質的に新規上場審査を経ずに上場を果たす結果(裏口上場)となることを防ぐための東証の審査制度です。実質的存続性を喪失すると認められた場合、猶予期間内に新規上場審査に準じた基準に適合しなければ上場廃止となります。

株式取得による子会社化(M&A)も実質的存続性審査の対象ですか?

対象です。審査対象となる「合併等」には吸収合併だけでなく、会社分割・事業の譲受け・子会社化・業務提携等が含まれます。増資で調達した資金による大型買収は審査の射程に入るため、「合併ではないから関係ない」という理解は誤りです。

実質的存続性はどのような基準で判断されますか?

まず軽微基準への該当性を確認し、該当しない場合は詳細審査に移行する二段階構造です。詳細審査では、定量面(売上高・総資産・純資産・経常利益の4指標の総合比較)と定性面(役員構成・経営管理組織・株主構成・商号・その他影響事項の5要素)を総合考慮し、どちらの企業が全体として事業主体として優位かという観点から判断されます。特定の1指標のみで結論が決まるものではありません。

過去の取引も実質的存続性の審査で考慮されますか?

考慮されます。東証の審査は単一の取引のみならず、一定期間(通常は3年程度)に行われた複数の行為を総合評価する実務で運用されています。過去の業務提携・段階的な出資等も含めた一連の行為が累積的に評価されるため、将来の追加取引の内容によっては当初の評価が変わり得る点に留意が必要です。

実質的存続性を喪失するとどうなりますか?

当該合併等を行った日以後最初に終了する事業年度の末日から3年を経過する日までの猶予期間に入ります。猶予期間内に新規上場審査の基準に準じた基準に適合すると認められれば上場維持となりますが、審査申請を行わない場合や基準に適合しないと認められた場合は上場廃止となります。猶予期間入り自体が株価・信用に重大な影響を与えるため、実務上は喪失しない範囲での案件設計が大原則です。

増資とM&Aを検討していますが、いつ実質的存続性を検討すべきですか?

案件設計の初期段階、遅くとも公表前の東証への事前確認が始まる前です。東証は適時開示の事前確認の中で実質的存続性の観点からの確認を行うため、事前に自社としての整理(定量4指標の比較・定性5要素の確認・過去3年の取引の洗い出し)を済ませておく必要があります。判断に迷う場合は専門家の意見書として検討結果を整理する実務対応もあります。

この記事は、実質的存続性の該当可能性の検討に実際に関与した行政書士が、東証の公表資料と実務経験をもとに執筆しています。事例は個社が特定されない形に一般化して記載しています。個別案件の判断は必ず専門家にご相談ください。

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