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第三者割当増資の資金調達手法の違い|新株・新株予約権・MSワラント・MSCBをわかりやすく解説

第三者割当増資の資金調達手法5種類(新株・新株予約権・MSワラント・CB・MSCB)の比較表のイメージ

第三者割当増資の資金調達手法(新株・新株予約権・MSワラント・CB・MSCB)の違いをわかりやすく解説。

各手法の調達確実性・希薄化・返済義務の比較、なぜCBではなく新株予約権を選ぶのか、借入との比較でなぜ増資かの説明実務まで、上場企業の開示で必須となる手法選択の理由を実務経験から解説。

この記事でわかること

  • 新株・新株予約権・MSワラント・MSCBの仕組みと違い
  • 各手法の調達確実性・希薄化・返済義務の比較
  • なぜCBではなく新株予約権を選ぶのか(実際の説明例)
  • 借入・社債と比較してなぜ増資かの記載実務
  • スモールキャップ企業・割当先属性ごとの手法選択の傾向
目次

はじめに|「なぜこの調達手法なのか」は開示の必須記載事項

第三者割当増資には複数の手法がある。

普通株式(新株)、新株予約権、行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)、転換社債型新株予約権付社債(CB)、行使価額修正条項付CB(MSCB)の5つだ。

これらの違いを理解することは、単なる知識の問題ではない。

実務上、「なぜこの手法を選んだのか」「他の調達手段と比較してなぜこれなのか」を適時開示・有価証券届出書に記載することが必須であり、財務局・東証からその合理性について確認が入るからだ。

たとえば、M&A資金という明確な使途があるのに、なぜ発行時に資金が確定するCBではなく、行使されるまで資金が入らない新株予約権を選ぶのか。

銀行借入でなくなぜ増資なのか。

これらの問いに説得力ある回答を用意できなければ、東証・財務局の事前相談は前に進まない。

この記事では、各資金調達手法の違いをわかりやすく整理したうえで、開示で必須となる「手法選択の理由」をどう説明するか、実務経験をもとに解説する。

5つの資金調達手法の基本

① 新株(普通株式)

最もシンプルな手法。割当先に普通株式を発行し、払込期日に払込金額全額が入金される。

  • 調達確実性: 高い(払込期日に全額入金)
  • 希薄化: 発行時に一度に生じる
  • 返済義務: なし(株式なので返済不要)
  • 特徴: 発行と同時に議決権が生じる。割当先には通常ロックアップ(一定期間の売却制限)が設定されることが多い

② 新株予約権(ワラント)

割当先に「将来、あらかじめ定めた行使価額で株式を取得できる権利」を発行する手法。

割当先は権利行使時に払込を行い、その時点で株式が交付される。

  • 調達確実性: 発行時は低い(行使されて初めて資金が入る)。ただしコミットメント条項付きの場合は実質的に確保される(後述)
  • 希薄化: 行使が進むにつれ段階的に生じる
  • 返済義務: なし
  • 特徴: 発行時の払込額は少額(新株予約権の発行価額のみ)。行使は割当先の判断による

③ MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権)

新株予約権の一種だが、行使価額が市場株価に連動して修正される条項が付いている。

行使価額は一般に行使時点の株価の数%ディスカウントに修正される(RECOFDATA「行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の概要と利用する際の検討事項」)。

  • 調達確実性: 株価下落時も行使が進みやすい設計だが、株価が下がるほど調達総額は減少する
  • 希薄化: 段階的だが、株価下落局面では発行株数が膨らみやすい
  • 返済義務: なし
  • 特徴: 通常の新株予約権は行使価額が固定のため、株価が行使価額を下回ると行使が進まない。
    MSワラントは行使価額が下方修正されるため、株価が下がっても行使が進みやすい。
    ただし希薄化率の計算では下限行使価額での潜在株式数を用いるため希薄化率が大きく計算されやすい

④ CB(転換社債型新株予約権付社債)

社債に新株予約権が付いたもの。

発行時に社債として資金が入り、その後、あらかじめ定めた転換価額で株式への転換が進む。転換価額は固定されている。

東証規則上、CB等とは上場会社が第三者割当により発行する新株予約権・新株予約権付社債・取得請求権付株式をいう(有価証券上場規程第410条)。

  • 調達確実性: 高い(発行時に社債として資金が入る)
  • 希薄化: 転換が進むにつれ段階的に生じる
  • 返済義務: あり(転換されない場合、社債として元本返済義務・利息支払義務が生じる)
  • 特徴: 発行時に確実に資金調達できる反面、負債性がある。転換価額が固定のため、株価が転換価額を下回ると転換が進みにくい

⑤ MSCB(行使価額修正条項付転換社債型新株予約権付社債)

CBのうち、転換価額が市場株価に連動して修正される条項が付いているもの。

②③の関係と同じく、CBに修正条項を付けたものがMSCBだ。

東証規則上、CB等のうち、新株予約権の行使に際して払込みをなすべき1株当たりの額(行使価額)が、6か月間に1回を超える頻度で、行使により交付される株券等の価格を基準として修正され得る旨の発行条件が付されているものをMSCB等という(有価証券上場規程施行規則第411条第2項)。

MSワラントもこのMSCB等の定義に該当し、MSCBと同様の規制を受ける。

  • 調達確実性: 高い(発行時に社債として資金が入る点はCBと同じ)。ただし転換により交付される株式数は株価により変動する
  • 希薄化: 転換が進むにつれ段階的に生じるが、株価下落局面では転換株数が膨らみやすい
  • 返済義務: あり(未転換部分は社債として元本返済義務・利息支払義務が生じる)
  • 特徴: CBの「発行時の資金確実性」とMSワラントの「株価下落時も転換が進みやすい」性質を併せ持つ。
    その分、既存株主の希薄化インパクトが大きくなりやすく、MSCB等特有の規制の対象となる

手法比較の早見表

それぞれの手法の関係を整理すると、次のような対応関係になる。

「行使価額(転換価額)が固定か修正されるか」という軸と、「新株予約権単体かCB(社債)付きか」という軸の掛け合わせで理解すると分かりやすい。

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行使価額(転換価額)固定行使価額(転換価額)修正条項付き
新株予約権単体(負債性なし)新株予約権MSワラント
社債付き(負債性あり)CBMSCB

これに「新株」を加えた5手法の比較は以下のとおりだ。

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手法発行時の調達調達確実性希薄化の生じ方返済義務利息
新株全額一度に生じるなしなし
新株予約権発行価額のみ低〜中
(コミット次第)
段階的なしなし
MSワラント発行価額のみ
(株価次第で総額変動)
段階的
(下落時に膨張)
なしなし
CB社債全額段階的ありあり
MSCB社債全額段階的
(下落時に膨張)
ありあり

この表からわかる本質的なトレードオフは、「調達の確実性」と「負債性(返済義務)」が両立しにくいという点だ。

発行時に確実に資金が入るCB・MSCBは返済義務という負債を負う。

返済義務のない新株予約権・MSワラントは発行時点では資金が確定しない。

この緊張関係が、手法選択の説明の核心になる。

もうひとつの軸である「行使価額(転換価額)の固定か修正か」は、株価下落局面での調達の進みやすさを左右する。

固定型(新株予約権・CB)は株価が行使価額を下回ると行使・転換が進まなくなるリスクがあるのに対し、修正型(MSワラント・MSCB)は株価が下がっても行使・転換が進みやすい設計だが、その分希薄化インパクトが大きくなりやすく規制の対象になる。

なぜCBではなく新株予約権を選ぶのか|実際の説明例

東証から実際に入った指摘例

M&A資金という明確な使途がある案件で新株+新株予約権の構成を選ぶと、東証から次のような趣旨の指摘が入ることがある。

「明確な使途(M&A資金)が存在するにもかかわらず、新株式+新株予約権(行使前提)という構成は、M&A実行時点での資金確保という観点から不確実性が高い。新株予約権ではなくCB等により事前に確実に調達するほうが合理的ではないか」

もっともな指摘だ。

これに対してどう説明するか。

実際の案件で用いた説明の枠組みを紹介する(個社が特定されない形に一般化している)。

説明①|コミットメント条項による実質的な調達確保

新株予約権であっても、割当先との総数引受契約にコミットメント条項(払込確約)を付すことで、調達の確実性を実質的に担保できる。

具体的には、割当先が行使期間中に発行体の要請があれば原則として行使に応じる義務を負う旨を契約上明記する。

これにより、法形式上は「将来行使される可能性のある新株予約権」であっても、経済実態としては割当先による資金拠出のコミットメントが確保された調達手段となる。

M&A実行に必要な時期までに行使を完了することをコミットメントとして明記すれば、実態として必要資金が確保される。

この説明により、「新株式部分は払込期日に確実に入金され、新株予約権部分もコミットメント条項により実質的に確保されている」という調達確実性を主張できる。

説明②|CBを選ばなかった合理的理由(負債性の回避)

そのうえで、「ではなぜ確実性で優れるCBにしないのか」に答える必要がある。

実務で説得力を持つのは、発行体の財務状況に照らした負債性の回避という理由だ。

  • 元本返済義務の回避:
    CBは社債である以上、転換されない場合の元本返済義務が生じる。営業赤字・財務基盤が脆弱な発行体にとって、返済義務を負うことは財務健全性をさらに毀損するリスクがある
  • 利息負担の回避:
    CBは社債利息の支払義務を伴う。営業赤字や債務超過の発行体にとってキャッシュフロー負担が増大する

つまり「確実性ではCBが優れるが、当社の現状の財務状況(営業赤字・債務超過)に照らすと、負債性のあるCBは財務健全性の観点から適切でなく、返済義務・利息負担のない新株予約権をコミットメント条項付きで用いるほうが合理的」という整理だ。

ポイントは、確実性の弱さをコミットメント条項で補い、CBを避ける理由を財務健全性で説明するという二段構えだ。

どちらか一方だけでは東証の指摘に応えきれない。

借入・社債と比較してなぜ増資か|記載の実務

他の調達手段との比較は必須記載

適時開示・有価証券届出書には、資金調達方法の合理性の説明として、銀行借入・社債等の他の調達手段と比較してなぜ増資(エクイティ)を選んだのかを記載する必要がある。

「足元の財務状況の悪さ」を正直に書く

実務上、この記載で説得力を持つのは、足元の財務状況の厳しさをありのままに書くことだ。

財務状況が悪く負債性の調達が困難であるという事実こそが、エクイティを選ぶ最も強い理由になる。

記載の骨子は概ね以下のような構成になる。

現在、複数の金融機関から相応の借入を行っており、直近期において営業損失の状態にある。このため、新規の銀行借入・社債発行・新株予約権付社債等の負債性のある資金調達手段は、(a)さらなる負債増加により財務基盤を一層毀損するおそれがあり、(b)現状の信用力・規模・上場会社としての特性に照らし、必要な規模の調達は実務上極めて困難である。したがって負債性のある資金調達手段は本件目的に適合しないと判断した。

——という整理だ。

「債務超過」「営業赤字」というワードはむしろ通りやすい

実務上の感覚として、「債務超過」「営業赤字」といった厳しい財務状況を示すワードを明記するほうが、エクイティ選択の説明は通りやすい。

負債性の調達が困難な理由が明確になるからだ。

業績が回復見込みの場合はむしろ注意

逆に注意すべきは、業績見込みで黒字転換するようなケースだ。

「来期は黒字転換の見込み」と書くと、東証・財務局から「来期黒字なら借入も可能では?なぜエクイティなのか」という指摘が入りやすい。

この場合は、将来の回復見込みを強調するよりも、あくまで足元の財務状況が厳しいという現在の事実を強調するほうが、エクイティ選択の合理性を説明しやすい。

将来の希望的観測は、この文脈では逆効果になり得る。

スモールキャップ企業・割当先属性ごとの手法選択の傾向

財務状況による手法選択の傾向

実務で見るスモールキャップ上場企業の手法選択には、財務状況による明確な傾向がある。

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発行体の状況選ばれやすい手法
財務状況が比較的良好・成長投資目的新株のみ、または新株+新株予約権
財務状況が厳しいMSワラント・MSCB(価格変動する手法)

財務状況が比較的良好で成長投資目的の調達であれば、シンプルな新株のみ、または新株+新株予約権の組み合わせが選ばれやすい。

一方、財務状況が本当に厳しい会社は、固定価額では引き受け手が付きにくいため、行使価額が変動するMSワラント・MSCBを選ばざるを得ないケースが多い。

MSワラント・MSCBはかつて既存株主の利益を損ねる仕組み(割当先が空売りで株価を下げてから安く転換・行使する等)として問題化した経緯があり、東証の規制対象となっている。

これらを選ぶ場合は、その必要性についてより丁寧な説明が求められる。

割当先の属性による手法選択の傾向

割当先が誰かによっても、好まれる手法は変わる。

海外投資家(特に送金限度額の制限がある国)の場合 新株は払込時に多額の送金が必要になるが、海外送金には着金時間の遅れが生じる可能性があり、送金限度額の制限がある国もある。

このため、払込時の金額が少額で済む新株予約権を活用するケースがある。

新株予約権は発行時の払込が発行価額のみで、行使は段階的に行えるため、大口の一括送金を避けられる。

純投資目的で機動的に売却したい投資家の場合 新株にはロックアップ(一定期間の売却制限)が設定されることが多いが、新株予約権の行使後に取得した株式にはロックアップ期間がないため、機動的に売却したい純投資目的の投資家には新株予約権が適している。

海外の投資ファンド(キャピタルゲイン目的)が新株予約権を選ぶ背景には、この売却の機動性もあるといえよう。

まとめ

第三者割当増資の資金調達手法は、新株・新株予約権・MSワラント・CB・MSCBの5種類が基本だ。

本質的なトレードオフは「調達の確実性」と「負債性(返済義務)」が両立しにくいことにある。

「なぜこの手法か」は適時開示・有価証券届出書の必須記載事項であり、東証・財務局から合理性の確認が入る。

M&A資金でCBではなく新株予約権を選ぶ場合は、コミットメント条項で調達確実性を補いつつ、CBの負債性(返済義務・利息)を財務健全性の観点から避ける、という二段構えの説明が有効だ。

借入と比較してなぜ増資かの記載では、足元の財務状況の厳しさ(営業赤字・債務超過等)をありのままに書くほうが説明が通りやすい。

業績回復見込みを強調すると「なぜ借入でないのか」という指摘を招くため、現在の財務状況の厳しさを軸に据えるべきだ。

手法選択は発行体の財務状況と割当先の属性で傾向が分かれる。

財務が厳しい会社ほど価格変動型(MSワラント・MSCB)を選ばざるを得ず、海外投資家や純投資目的の投資家は新株予約権を好む。

いずれの場合も「なぜその手法か」を説明できる準備が、開示実務の核心になる。

お問い合わせ・ご相談

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初回相談は無料で承っております。

FAQ(よくある質問)

第三者割当増資の資金調達手法にはどのようなものがありますか?

主に5種類です。普通株式(新株)、新株予約権、行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)、転換社債型新株予約権付社債(CB)、行使価額修正条項付CB(MSCB)です。調達の確実性・希薄化の生じ方・返済義務の有無がそれぞれ異なり、発行体の財務状況や割当先の属性によって使い分けられます。

なぜ資金の確実性が必要なM&A案件でCBではなく新株予約権を選ぶことがあるのですか?

CBは発行時に社債として確実に資金が入る反面、転換されない場合の元本返済義務と利息支払義務という負債性があります。営業赤字など財務状況が厳しい発行体にとっては、この負債性が財務健全性をさらに毀損するリスクとなります。そこで、コミットメント条項(払込確約)を付した新株予約権を用いることで、調達の確実性を実質的に確保しつつ負債性を回避する、という選択が合理的になる場合があります。

コミットメント条項とは何ですか?

割当先が行使期間中に発行体の要請があれば原則として新株予約権の行使に応じる義務を負う旨を、総数引受契約に明記する条項です。これにより、法形式上は将来行使される可能性のある新株予約権であっても、経済実態としては割当先による資金拠出が確保された調達手段となります。

借入ではなく増資を選ぶ理由はどう書けばよいですか?

足元の財務状況の厳しさをありのままに記載することが説得力につながります。営業赤字・既存借入の状況等により、新規借入・社債等の負債性のある調達手段が財務基盤の毀損につながること、現状の信用力・規模では必要規模の借入が実務上困難であることを説明します。「債務超過」「営業赤字」といった事実を明記するほうが、エクイティ選択の理由が明確になり通りやすい傾向があります。

業績が回復見込みの場合の書き方の注意点はありますか?

「来期黒字転換見込み」等を強調すると、東証・財務局から「黒字なら借入も可能では」という指摘を招きやすくなります。将来の回復見込みよりも、あくまで足元の財務状況が厳しいという現在の事実を軸に据えて説明するほうが、エクイティ選択の合理性を示しやすくなります。

海外投資家が割当先の場合、どの手法が選ばれやすいですか?

新株予約権が選ばれやすい傾向があります。新株は払込時に多額の送金が必要ですが、海外送金には着金の遅れや送金限度額の制限がある国もあります。新株予約権は発行時の払込が発行価額のみで段階的に行使できるため、大口の一括送金を避けられます。また新株予約権の行使後に取得した株式にはロックアップがないため、機動的に売却したい純投資目的の投資家にも適しています。

この記事は、第三者割当増資の各種スキームの実務・東証財務局対応に実際に関与した行政書士が、実務経験と一次情報をもとに執筆しています。東証からのコメント内容・案件事例は個社が特定されない形に一般化して記載しています。個別案件の判断は必ず専門家にご相談ください。

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