有価証券届出書の作成費用の相場・行政書士と弁護士の費用比較・FA費用との違いを、実際に有価証券届出書作成に関与している行政書士が解説。
この記事でわかること
- 有価証券届出書作成支援費用の相場感(行政書士・弁護士)
- 着手金型と成功報酬型の違いと発行体へのメリット・デメリット
- 審査対象案件・重点審査先指定で費用が増える理由
- FA費用と届出書作成アドバイザー費用の根本的な違い
- スモールキャップ企業が知っておくべきコスト設計の考え方
はじめに|「費用がいくらかかるか」が最初にわからない問題
有価証券届出書の作成支援を専門家に依頼しようとしたとき、IR担当者が最初に直面する問題がある。
費用の相場がわからない。
弁護士事務所や行政書士事務所のウェブサイトを見ても、有価証券届出書の作成支援費用を明示しているところはほとんどない。
問い合わせをして初めて見積もりが出てくる、というケースがほとんどだ。
なぜ相場が形成されにくいのか。
理由は業務として取り組める専門家の絶対数が少ないことだ。
有価証券届出書の作成実務を手がけられる行政書士事務所・弁護士事務所は限られており、市場原理が働くほどの競合が存在しない。
結果として、依頼先によって費用が大きく異なるという状況が続いている。
この記事では、有価証券届出書の作成支援にかかる費用の実態を、実際に有価証券届出書作成に関与している行政書士の立場から解説する。
有価証券届出書作成支援費用の相場
相場が形成されていないのが実情
率直に言うと、有価証券届出書の作成支援費用は市場全体として明確な相場が形成されていない。
その最大の理由は、この業務に対応できる専門家の数が少ないことだ。
財務局との事前相談・やり取り・有価証券届出書ドラフトの作成修正・東証との並行対応、印刷会社独自システムへの入稿という一連のプロセスを実務として担える事務所は限られており、複数の事務所に見積もりを取って比較するという状況になりにくい。
ただし、大手弁護士事務所(四大法律事務所等)に依頼した場合の費用感はある程度把握されており、2,000万円程度といわれている。
当事務所の報酬体系
清水法務事務所では、以下の報酬体系を基準としている。
| 区分 | 金額(税別) |
|---|---|
| 着手金 | 100万円 |
| 成功報酬 | 900万円 |
| 合計(基準) | 1,000万円 |
ただし以下のケースでは、基準報酬を超える場合がある。
- 審査対象案件(希薄化率25%以上・支配株主異動)
- 重点審査先に指定された案件
- 財務局・東証との往復が長期化する案件
これらのケースでは業務に要する時間が大幅に増えるため、タイムチャージ的な考え方で報酬が加算される。
なお、提出期日までのスケジュールがタイトな案件は、業務期間自体は短くなるものの、対応の難易度・リソース集中度が上がるため、別途ご相談のうえ個別に見積もりをお出しする。
具体的な金額は案件の状況によって異なるため、まずはご相談いただきたい。
着手金型・着手金+成功報酬型・完全成功報酬型の違い
専門家への依頼における報酬の支払い方式は大きく3種類ある。
先払い型
業務開始時点で全額または大部分を支払う方式。
大手弁護士事務所の多くがこの方式を採用している。
増資の成否にかかわらずタイムチャージ的に費用が発生するため、発行体にとってリスクが高い。
着手金+成功報酬型
業務開始時に着手金を支払い、有価証券届出書の効力発生・払込完了という成果に連動して残額(成功報酬)を支払う方式。
清水法務事務所が採用している方式だ。
発行体と専門家がリスクを分担する形であり、増資が成立しなかった場合の発行体の損失を着手金の範囲に限定できる。
完全成功報酬型
着手金なし。
払込完了のタイミングで全額を支払う方式。
発行体にとってはキャッシュアウトのリスクが最も低い反面、専門家側のリスクが高くなるため、対応できる事務所は限られる。
スモールキャップ企業が第三者割当増資を行う場面では、増資による資金調達そのものが資金繰りの改善を目的としているケースが多い。
そのような会社にとって、増資の実行前に多額の費用を先払いすることは大きな負担だ。
大手弁護士事務所の先払い方式では、増資が成功しなかった場合でも費用が発生するリスクがある。
当事務所が着手金+成功報酬型を採用しているのは、発行体と同じリスクを共有するという考え方に基づいている。
審査対象案件・重点審査先で費用が増える理由
費用はほぼ「時間」に比例する
有価証券届出書の作成支援費用が増える最大の要因は、業務に費やす時間の長さだ。
通常案件と審査対象案件では、業務の性質が根本的に異なる。
通常案件(非審査対象)の場合
財務局事前相談から有価証券届出書提出まで概ね2週間。
有価証券届出書ドラフト・適時開示ドラフトの作成から数えると、発行体側で準備すべき書類がすべて揃っていることを前提とすると、提出予定日の1か月前程度から着手すれば対応可能なことが多い。
審査対象案件(希薄化率25%以上等)の場合
財務局事前相談から有価証券届出書提出まで2か月で、できればよい方とされている。
加えて、事前相談に臨む時点では有価証券届出書ドラフト・適時開示ドラフトが一定程度完成している必要があるため、ドラフト作成から数えると発行体側で資料がすべて揃っていたとしても、提出予定日の少なくとも3か月前には着手しなければならないのが実情だ。
この「3か月」という期間は、スモールキャップ企業のIR担当者が想定しているよりはるかに長い。
「来月増資したい」という相談が来ることがあるが、審査対象案件であれば現実的に不可能である。
審査対象案件で時間がかかる理由
審査対象案件の場合、財務局内でも複数の部署が連携して有価証券届出書の確認にあたる。
各部署間の調整が必要になるため、財務局からのコメントバックにも相応の時間がかかる。
コメントへの対応・修正・再提出を繰り返すうちに期間が延びていく構造だ。
さらに、重点審査先に指定された案件では、指摘事項がより広範かつ深度のある内容となり、追加資料の提出を求められる場面も多くなる。
これが費用増加の直接的な要因となる。
FA費用と有価証券届出書作成アドバイザー費用の根本的な違い
費用の構造がまったく異なる
有価証券届出書の作成支援費用とFA費用は、その算定構造がまったく異なる。
有価証券届出書作成アドバイザー費用
業務に要する時間・難易度に基づく固定報酬またはタイムチャージ。調達金額の大小には直接連動しない。
FA費用
調達金額に対するパーセンテージで計算される成功報酬。調達金額が大きいほど費用が大きくなる。
料率はM&Aのレーマンテーブルに準ずるケースが多い。
具体的な金額の比較
たとえば20億円の第三者割当増資を実施する場合を考えてみる。
| 依頼形態 | 費用の目安(税別) |
|---|---|
| 有価証券届出書作成アドバイザーのみ(大手弁護士事務所) | 2,000~3,000万円 |
| 有価証券届出書作成アドバイザーのみ(当事務所) | 1,000万円 |
| FA込み(調達額の5%の場合) | 1億円 (有価証券届出書作成費用は別途の場合もあり) |
FAを依頼した場合、増資金額に対する料率でフィーが計算されるため、調達額が大きいほど費用は急増する。
20億円の増資であれば料率5%で1億円のFAフィーが発生し、有価証券届出書作成費用がその上に加算されることもある。
なお、当事務所においてもグループ会社の合同会社ツギテラスにてFA込みで受託可能であるが、その場合は有価証券届出書作成費用はFAフィーに含めている。
一方、発行体が自ら引受先を見つけてきた場合はFAが不要であり、有価証券届出書作成アドバイザーへの依頼費用のみで済む。
スモールキャップ企業にとって、引受先を自社で確保できるかどうかが総コストに大きな差をもたらす。
FAが必要なケース・不要なケース
| 状況 | FAの要否 |
|---|---|
| 引受先を自社で確保できる | FA不要。有価証券届出書作成アドバイザーのみ依頼 |
| 引受先の選定・紹介から依頼したい | FAが必要。 |
| 発行条件の設計・交渉サポートも必要 | FAが必要。 |
「上場企業の第三者割当増資|有価証券届出書の作成・提出実務をスモールキャップ向けに解説」でも触れた通り、スモールキャップ案件ではFAと有価証券届出書作成アドバイザーが同一のケースも多い。
その場合、FA機能と届出書作成支援を一体で提供する形となり、費用体系も異なる。
有価証券届出書の作成費用が増えるケースの早見表
以下は、費用が基準より増加しやすい要因の一覧だ。
案件の事前評価として活用してほしい。
| 要因 | 費用への影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 審査対象案件(希薄化率25%以上) | 増加 | 財務局審査の長期化・複数部署の関与 |
| 重点審査先に指定 | 増加 | 指摘事項の広範化・追加資料対応 |
| 過去に複数回の増資経験あり | 増加 | 過去の資金使途管理資料の対応範囲拡大 |
| 業績不振・債務超過 | 増加 | 資金使途の説明責任が重くなる |
| スケジュールがタイト | 増加 | 短期集中対応のためのリソース配分 |
| 資金使途が複雑(M&A等) | 増加 | 財務局コメントへの対応回数増加 |
| 財務局・東証からのコメントバックが多い | 増加 | 届出書の修正回数増加・並行対応コスト |
スモールキャップ企業へのコスト設計アドバイス
費用を「コスト」ではなく「保険」として考える
有価証券届出書の作成支援費用を純粋なコストとして見ると、「できるだけ安く済ませたい」という判断になりやすい。
しかし実務の観点から言うと、この費用は訂正届出書の提出リスク・スケジュール遅延リスク・財務局からの追加資料要求リスクを低減するための保険に近い性質を持つ。
訂正届出書を1回提出すると、待期期間が中15日にリセットされる。
払込スケジュールが2週間以上遅れることになり、引受先との契約上の問題や、資金需要のタイミングとのズレが生じる。
これによる機会損失は、アドバイザー費用を大きく上回る可能性がある。
経験の浅いアドバイザーに安価で依頼したために訂正届出書の提出が必要になり、かえって総コストが増えた、というケースは実際に起きている。
着手前に確認すべき3点
依頼先を選ぶ際、以下の3点を事前に確認することを推奨する。
- 実際に有価証券届出書作成の実務に関与した経験があるか
「有価証券届出書の作成支援をしています」と言う事務所でも、実際に財務局とのやり取りを経験しているかどうかは大きな差だ。財務局から初回に求められる提出書類の内容・コメント対応の実態を理解しているかを確認することが重要だ。 - 費用体系が透明か
先払い方式か成功報酬型か、費用が増加する要因と条件が明示されているかを確認する。特に「状況によって追加費用が発生する場合があります」という記載だけでは不十分であり、どのような状況で追加費用が発生するかの基準を確認する。 - スケジュール管理の実績があるか
財務局・東証との並行対応・コメントバックの管理・発行体への資料提供依頼など、案件全体のスケジュール管理がアドバイザー業務の肝ともいえる。これらマネジメントを担える経験があるかを確認する。
まとめ
有価証券届出書の作成支援費用は、業務に対応できる専門家の絶対数が少ないため市場全体での相場が形成されにくい。
大手弁護士事務所では2,000万円程度、当事務所の基準は着手金100万円+成功報酬900万円の合計1,000万円だ。
費用が増加する最大の要因は業務に費やす時間の長さであり、審査対象案件では提出予定日の3か月前からの着手が必要になるなど、通常案件と比べて大幅に期間が延びる。
FA費用は調達金額に対するパーセンテージで計算されるため、有価証券届出書作成アドバイザー費用とは構造がまったく異なる。
20億円の増資でFAを雇うと料率5%で1億円のFAフィーが発生し、有価証券届出書作成費用はその上に加算されることもある。発行体が自ら引受先を確保できるかどうかが、総コストに最も大きな影響を与える。
費用の多寡だけで依頼先を選ぶのではなく、実務経験・費用体系の透明性・スケジュール管理能力の3点を確認したうえで判断することを推奨する。
お問い合わせ・ご相談
有価証券届出書の作成支援費用・対応可否についてのご相談は当事務所にお問い合わせください。案件の状況をお伺いしたうえで、費用の見積もりと対応スケジュールをご提示します。
FAQ(よくある質問)
- 有価証券届出書の作成支援費用の相場はいくらですか?
-
市場全体として明確な相場は形成されていません。大手弁護士事務所では2,000万円程度といわれています。当事務所の基準は着手金100万円+成功報酬900万円の合計1,000万円(税別)ですが、審査対象案件や重点審査先に指定された案件では追加費用が発生する場合があります。
- 着手金型と成功報酬型、どちらが有利ですか?
-
資金調達を目的とした増資の場合、増資実行前に多額の費用を先払いすることは資金繰りへの負担になります。成功報酬型であれば有価証券届出書の効力発生・払込完了という成果に連動して費用を支払う形になるため、発行体にとってリスクが低い支払い方式です。ただし、着手金が全くないケースは少なく、通常は着手金+成功報酬の組み合わせになります。
- 審査対象案件では費用はどのくらい増えますか?
-
案件の状況によって異なりますが、財務局審査の長期化・複数部署との調整・追加資料対応などにより業務時間が大幅に増えるため、通常案件より費用が増加します。審査対象案件では提出予定日の少なくとも3か月前からの着手が必要になることを踏まえ、早めにご相談ください。
- FAに依頼した場合と届出書作成アドバイザーのみに依頼した場合、費用はどのくらい違いますか?
-
根本的に費用の構造が異なります。FA費用は調達金額に対するパーセンテージで計算されるため、調達額が大きいほど費用が増えます。たとえば20億円の増資でFAを雇うと料率5%で1億円のFAフィーが発生します。一方、有価証券届出書作成アドバイザー費用は業務の難易度・時間に基づくため、調達金額には直接連動しません。発行体が自ら引受先を確保できる場合はFAが不要となり、総コストを大幅に抑えられます。
- 安い事務所に依頼した場合のリスクはありますか?
-
実務経験が不足している事務所に依頼した場合、訂正届出書の提出が必要になるリスクが高まります。訂正届出書を1回提出すると待期期間が中15日にリセットされ、払込スケジュールが2週間以上遅延します。これによる機会損失はアドバイザー費用を大きく上回る可能性があります。費用の安さだけでなく、実際の有価証券届出書作成実務への関与経験を確認することが重要です。
- まず相談だけすることはできますか?
-
はい、初回相談は無料で承っております。案件の概要(調達規模・希薄化率の見込み・スケジュール)をお知らせいただければ、費用の目安と対応可否をお伝えすることができます。
この記事は、有価証券届出書の作成支援に実際に関与している行政書士が、実務経験をもとに執筆しています。費用は案件の状況によって変動します。正確な費用はご相談ください。

