審査対象第三者割当の仕組み・必要手続き・希薄化率の正確な計算方法を解説。
複数回増資を繰り返すスモールキャップ企業が知っておくべき累積希薄化率の落とし穴まで、実務経験を持つ行政書士が解説します。
この記事でわかること
- 審査対象第三者割当の2つの該当要件
- 希薄化率の正確な計算方法(分子・分母・潜在株式の扱い)
- 審査対象に該当した場合に必要な2つの手続き
- 意見書とは何か・誰が書くか
- 300%ルールと上場廃止基準
- 複数回増資における累積希薄化率の落とし穴
- 待期期間・事前相談への影響
はじめに|スモールキャップ企業は「気づいたら審査対象」になりやすい
第三者割当増資を検討しているスモールキャップ上場企業のIR担当者から、よく耳にする言葉がある。
「うちは大きな増資ではないので、審査対象にはならないと思っていた」
しかし実態はそうでない。スモールキャップ企業は発行済株式数が少ないため、調達金額がそれほど大きくなくても希薄化率25%を超えるケースが多い。
そして希薄化率25%を超えると、東証の企業行動規範上の「審査対象第三者割当」に該当し、通常の手続きに加えて追加の対応が必要になる。
さらに問題なのは、複数回にわたって増資を繰り返す場合、直近6か月以内の増資は合算して希薄化率を計算するルールがあることだ。
1回の増資では25%未満でも、複数回合計すると25%を超えるケースがある。
そして希薄化率が300%を超えると、原則として上場廃止の審査対象となる。
自社の増資が、審査対象になりうるのか、審査対象となった場合にどのような影響があるのかについて解説していく。
審査対象第三者割当とは
東証の有価証券上場規程第432条は、第三者割当が以下のいずれかに該当する場合、追加の手続きを求めている。
これを実務上「審査対象第三者割当」と呼ぶ。
該当する2つの要件
- 希薄化率が25%以上となる場合
- 支配株主の異動が生じる場合(または生じる見込みがある場合)
(参考)東証「第三者割当に係る上場制度の概要及び実務上の留意事項」
①については、今回の第三者割当によって生じる希薄化率が25%以上となる場合。
②については、第三者割当の実施により、支配株主(総議決権の過半数を保有する株主)が異動することとなる場合。
新株予約権の転換・行使による異動が見込まれる場合も含む。
スモールキャップ企業の第三者割当増資で特に注意が必要なのは①だ。
時価総額が小さく発行済株式数が少ない会社では、必要な調達金額に対して発行株式数が多くなりやすく、気づかないまま25%を超えるケースが珍しくない。
希薄化率の正確な計算方法
「希薄化率25%」という基準を正しく適用するには、希薄化率の計算方法を正確に理解する必要がある。
東証の上場規程施行規則第435条の2が根拠規定だ。
希薄化率の計算式
希薄化率の計算式は原則以下の通りだ。
希薄化率(%)= A ÷ B × 100
A:今回の第三者割当によって生じる議決権数
B:募集事項の決定前における発行済株式に係る総議決権数
一方で、今回の増資日の6ヵ月以内に前回増資をしている場合、次の「複数回増資における累積希薄化率の落とし穴」で解説の通り、前回増資時に発行した株式数を希薄化の計算に入れる必要があるので注意されたい。
分子(A)の注意点|潜在株式を含む
今回発行するのが新株予約権(ワラント)や転換社債型新株予約権付社債(CB)である場合、分子の議決権数にはその転換・行使により交付される株式(潜在株式)に係る議決権数を含める。
行使価額等が修正される新株予約権(移動行使価額新株予約権:MSワラント)の場合は、その下限価額における潜在株式数を用いて計算する。
つまり、MSワラントのように行使価額が株価に連動して下方修正される設計の場合、下限価額で計算した最大潜在株式数が分子に入るため、希薄化率が大きく計算されやすい。
額面上の「今回の発行株式数」だけで判断すると、実際の希薄化率を過少に見積もるリスクがある。
分母(B)の注意点|既存の潜在株式は含まない
分母は「募集事項の決定前における発行済株式に係る総議決権数」であり、募集事項決定前に存在する潜在株式(既存のワラント等)は含めない。
これは直感に反する点だが、規程上明確に定められている。
既存のワラントが大量に未行使で存在していても、分母には含まれないため、希薄化率が高めに計算される構造になっている。
計算例
以下の例では、300万株の発行で希薄化率30%となり、審査対象に該当する。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 募集事項決定前の発行済株式数 | 1,000万株 |
| 既存の新株予約権(潜在株式) | 100万株(分母に含まない) |
| 今回発行する新株式数 | 300万株 |
| 希薄化率 | 300万 ÷ 1,000万 × 100 = 30% → 審査対象 |
複数回増資における累積希薄化率の落とし穴
スモールキャップ企業が特に注意すべきなのが、複数回にわたって短期間で増資を行う場合の累積計算ルールだ。
6か月以内の複数回増資は「一体」として計算
東証の規程では、第三者割当を6か月を目安に複数回実施する場合、これらを一体とみなして希薄化率を算出する(東証「第三者割当に係る上場制度の概要及び実務上の留意事項」)。
開示の軽微基準に該当する第三者割当も原則として含む。
つまり、先の計算式のA、Bの数値に6ヵ月以内に第三者割当で発行した株式数を加減して希薄化率を算出する必要がある。
計算式は以下の通りとなる。
希薄化率(%)= (A + C) ÷ (B – C) × 100
A:今回の第三者割当によって生じる議決権数
B:募集事項の決定前における発行済株式に係る総議決権数
C:6ヵ月以内に第三者割当で発行した株式数
計算例は以下の通りだ。
今回発行分は100万株であるため、発行済みの1,000万株の10%であると考え、審査対象とはならないと考えてしまいがちであるが、この例も25%ルールが適用される。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 募集事項決定前の発行済株式数 | 1,000万株 |
| 既存の新株予約権(潜在株式) | 100万株(分母に含まない) |
| 今回発行する新株式数 | 100万株 |
| 6ヵ月以内に第三者割当で発行した株式数 | 200万株 |
| 希薄化率 | (100万+200万) ÷ (1,000万 – 200万) × 100 = 37.5% → 審査対象 |
スモールキャップ企業が陥りやすいパターン
複数回増資を繰り返すスモールキャップ企業は、以下のようなリスクに直面する。
パターン①:1回ずつは25%未満でも合算で超える
調達規模を小分けにすることで審査対象を回避しようとしても、6か月以内であれば合算されるため回避できない。
パターン②:累積で300%に近づいている
過去の増資を重ねた結果、発行可能な株式数の上限(300%ルール)に近づいている会社が存在する。この状態でさらに増資を検討する場合、上場廃止リスクを正確に把握したうえで慎重な判断が必要だ。
パターン③:増資のたびに東証の審査が厳しくなる
複数回の増資を繰り返すと、東証は「前回の増資資金をどう使ったか」「なぜまた増資が必要なのか」を厳しく問う。
「財務局・東証への事前相談|有価証券届出書提出前に準備すべきこと・聞かれること」で解説している通り、東証は増資の質を評価する機関であり、過去の増資実績が積み上がるほど説明責任が重くなる。
審査対象第三者割当に該当した場合に必要な2つの手続き
審査対象第三者割当に該当する場合、東証の企業行動規範(有価証券上場規程第432条)上、以下のいずれかの手続きが必要となる。
手続き①|経営者から独立した者による意見書の入手
「経営者から一定程度独立した者」が、当該第三者割当の必要性および相当性について意見書を作成し、それを入手する。
「経営者から一定程度独立した者」とは
- 社外取締役
- 社外監査役
- 第三者委員会(社外の専門家等で構成)
意見書は、増資の必要性(なぜ増資が必要か)と相当性(なぜこの条件・相手先への割当が適切か)の両面について、経営者とは独立した立場から判断した内容を記載するものだ。
実務上の委員会構成
意見書の取得にあたっては、実務上は社外役員を交えた委員会を構成する形式を採るケースが多い。
委員会のメンバーとしては、社外取締役・社外監査役が中心となる。
なお、日本弁護士連合会のガイドラインでは独立した第三者委員会の構成員として「学識経験者・ジャーナリスト・公認会計士等の有識者」が望ましいとされている。
しかし実務上は、東証に独立役員として届け出ている社外役員が委員会を構成するケースが多く、東証もこれを独立性の要件を満たすものとして認めると考えられている。
委員会の合意形成の進め方
委員会の合意形成は、オンラインミーティングまたはメールで進める運用を取るケースが多い。
スモールキャップ企業では社外役員が地方在住であったり多忙であったりするケースもあるため、対面での委員会開催にこだわらず、実務的な運用で進めることが一般的だ。
意見書を作成する専門家
意見書の文書作成は実務上、弁護士が担当するケースが多い。行政書士が意見書を作成することはない。
また、意見書を作成する弁護士は、有価証券届出書作成を支援するアドバイザー(弁護士・行政書士)とは別の弁護士に依頼するケースが通常だ。
意見書の取得には委員会の設置・合意形成・文書作成という一連のプロセスが必要であり、相応の時間・費用がかかる。
審査対象案件であることが判明した段階で、早めに準備を開始することが重要だ。
手続き②|株主総会決議による株主意思の確認
株主総会を開催し、当該第三者割当の実施について株主の承認決議を得る。
株主総会開催のスケジュール上の影響
臨時株主総会を開催する場合、招集通知の発送から総会開催まで最低2週間の期間が必要だ。
これが払込スケジュール全体に大きく影響する。
審査対象案件では、この株主総会スケジュールを最初から組み込んだ日程設計が必要になる。
300%ルールと上場廃止基準
希薄化率が300%を超える第三者割当は、原則として上場廃止の審査対象となる(東証有価証券上場規程第601条第1項第15号、同施行規則第601条第12項第6号)。
300%超でも上場を維持できる例外
「株主および投資者の利益を侵害するおそれが少ない」と認められる場合は例外とされる。
具体的には以下のようなケースが想定されている。
- 公的資金の注入(金融機関への公的支援等)
- 株主総会決議による定款変更を通じて発行可能株式総数を段階的に拡大し、株主意思確認を段階的に行うケース
ただしこれらはあくまで例外であり、個別の事情に応じた総合判断が必要だ。
スモールキャップ企業が300%超の増資を検討する場合は、十分な時間的余裕をもって東証に事前相談することが不可欠だ。
複数回増資による累積300%リスク
スモールキャップ企業の中には、過去に複数回の増資を実施した結果、累積希薄化率が200%・250%に達している会社もある。
そのような会社がさらに増資を検討する場合、残りの「枠」が限られている。
発行前に必ず確認すべき計算
- 過去の第三者割当による累積希薄化率(6か月以内の分は一体計算)
- 今回の発行後に累積希薄化率が300%を超えないか
- 定款上の発行可能株式総数と発行済株式数の関係
待期期間・事前相談への影響
審査対象第三者割当に該当する場合、有価証券届出書の手続きにも影響が生じる。
待期期間の短縮が認められない
「有価証券届出書の様式はどれを選ぶ?通常方式・組込方式・参照方式の違いとスモールキャップ企業が陥りやすい落とし穴」で解説した通り、組込方式・参照方式の場合、通常は待期期間を中7日に短縮できる。
しかし審査対象第三者割当の場合、この短縮は原則として認められない(開示ガイドライン8-2④)。
組込方式であっても中15日の待期期間が生じることを前提にスケジュールを設計しなければならない。
財務局事前相談の期間が長期化する
審査対象案件の場合、財務局事前相談の期間も通常より長期化する。
関東財務局の資料では「審査対象第三者割当の場合は1か月を超えることもある」と明記されている。
また、重点審査先に指定された場合はさらに長期化する可能性がある。
審査対象案件のスケジュール設計の目安
【通常案件(組込方式・非審査対象)】
財務局事前相談申し込み → 届出書提出まで:概ね2週間
待期期間:中7日
合計最短:約3週間
【審査対象案件(組込方式)】
財務局事前相談申し込み → 届出書提出まで:1か月以上を見込む
待期期間:中15日(短縮不可)
意見書入手または株主総会スケジュール:別途加算
合計:2か月以上を前提に設計することが現実的
ただし、事前相談がスタートできるのは、財務局が提出を求めてきた初期資料をすべてそろえて提出してからになる。
よって、資料がすべてそろってから、最短3週間(通常案件)または2ヶ月(審査対象案件)と理解しておきたい。
スケジュール設計の仕方について詳しく知りたい方は「第三者割当増資の全体スケジュール設計|取締役会決議から払込完了まで逆算で組む実務ガイド」をご参照いただきたい。
スモールキャップ企業への実務上のアドバイス
増資検討の初期段階で希薄化率を計算する
希薄化率の計算は、調達金額と発行株式数の検討と同時に行うべきだ。
25%を超えるかどうかによって必要な手続きが大きく変わるため、後から判明すると日程全体が狂う。
過去の増資の累積状況を整理する
過去に複数回の増資を実施している会社は、過去の増資の累積希薄化率を整理した上で今回の増資計画を立てる必要がある。
特に6か月以内に複数回行う計画がある場合は、合算計算の影響を事前に確認することが不可欠だ。
債務超過・業績不振の会社は特に慎重に
業績が大きく悪化している会社や債務超過の会社が審査対象の増資を行う場合、東証・財務局の両方から非常に厳しい確認が入る。
増資の必要性・相当性の説明責任が重くなるため、専門家への早期相談を強く勧める。
まとめ
審査対象第三者割当は、希薄化率25%以上または支配株主異動という要件に該当する増資だ。
スモールキャップ企業は発行済株式数が少ないため、調達額がそれほど大きくなくてもこの要件に該当しやすい。
審査対象に該当すると「意見書の入手」または「株主総会決議」という追加手続きが必要になり、待期期間の短縮も認められず、財務局事前相談の期間も長期化する。
複数回増資を繰り返す場合は6か月以内の合算ルールにも注意が必要で、累積希薄化率が300%に近づいている会社は上場廃止リスクを正確に把握した慎重な判断が求められる。
増資の計画段階で希薄化率を正確に計算し、審査対象に該当するかどうかを早期に確認することが、スムーズな資金調達の第一歩だ。
お問い合わせ・ご相談
審査対象第三者割当の手続き・希薄化率の計算・意見書の手配についてのご相談は当事務所にお問い合わせください。
東証・財務局への事前相談対応を含めてサポートします。
FAQ(よくある質問)
希薄化率25%以上になると増資できないのですか?
増資自体はできます。ただし東証の企業行動規範(上場規程第432条)上、「経営者から独立した者による意見書の入手」または「株主総会決議による株主意思の確認」のいずれかの手続きが追加で必要になります。
希薄化率の計算で新株予約権(ワラント)を発行する場合、どの株式数で計算しますか?
分子(発行する議決権数)には、新株予約権の転換・行使により交付される潜在株式に係る議決権数を含めます。行使価額が修正される設計(MSワラント等)の場合は、下限価額における潜在株式数で計算します。分母(発行前の総議決権数)には既存の潜在株式は含めません。
3か月前にも増資しました。今回の希薄化率は単独で計算できますか?
できません。6か月を目安に複数回の第三者割当を実施する場合、これらを一体とみなして希薄化率を計算します。3か月前の増資と今回を合算した希薄化率で判定されます。
意見書を取得するための委員会はどのように構成・運営しますか?
実務上は社外役員(社外取締役・社外監査役)を交えた委員会を構成するケースが多いです。日弁連ガイドラインでは「学識経験者・ジャーナリスト・公認会計士等の有識者」が望ましいとされていますが、東証に独立役員として届け出ている社外役員が委員会を構成することも、独立性の要件を満たすものとして実務上認められています。委員会の合意形成はオンラインミーティングまたはメールで進める運用が一般的です。
意見書は誰に頼めばよいですか?
実務上は弁護士が作成するケースが多いです。行政書士が意見書を作成することはありません。また、意見書を作成する弁護士は、届出書作成を支援するアドバイザーとは別の弁護士に依頼するケースが大半です。
審査対象案件の場合、待期期間は何日になりますか?
組込方式・参照方式であっても、審査対象第三者割当の場合は待期期間の中7日への短縮が原則として認められません。中15日の待期期間を前提にスケジュールを設計してください。
希薄化率が300%を超えると必ず上場廃止になりますか?
原則として上場廃止の審査対象となります。ただし「株主および投資者の利益を侵害するおそれが少ない」と認められる例外的なケース(公的資金の注入等)を除きます。300%超の増資を検討している場合は、十分な時間的余裕をもって東証に事前相談することが不可欠です。
この記事は、東証「第三者割当に係る上場制度の概要及び実務上の留意事項」(JPX FAQ)、東証有価証券上場規程第432条・第601条、同施行規則第435条の2・第601条第12項第6号をもとに、第三者割当増資の実務に関与する行政書士が執筆しています。個別案件の判断は必ず専門家にご相談ください。
