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有価証券届出書の様式はどれを選ぶ?通常方式・組込方式・参照方式の違いとスモールキャップ企業が陥りやすい落とし穴

有価証券届出書の様式はどれを選ぶ?通常方式・組込方式・参照方式の違いとスモールキャップ企業が陥りやすい落とし穴のイメージ

第三者割当増資で有価証券届出書を作成するとき、どの様式にすればよいのか選び方がわからない発行体も少なくないはず。

この記事では、有価証券届出書作成時の様式の選び方と様式によるスケジュールの違い、実際にあった様式選択の落とし穴について解説。

この記事でわかること

  • 有価証券届出書の3つの様式の選び方、構造的な違い
  • 組込方式・参照方式を利用するための要件(継続開示要件・周知性要件)
  • 各様式と待期期間の関係
  • スモールキャップ企業が陥りやすい様式選択の落とし穴
  • 自社がどの様式を使えるかを判断するフローチャート
目次

はじめに|「どの様式を使えばいいか」は実は単純ではない

第三者割当増資で有価証券届出書を提出することになったとき、最初に直面する疑問のひとつが「どの様式を使うべきか」という問題だ。

有価証券届出書の様式は3種類ある。通常方式・組込方式・参照方式。

名前は知っていても、自社がどれを使えるのか、どれを選ぶべきかを正確に把握しているIR担当者は多くない。

さらに見落とされやすいのが、様式の選択が待期期間(届出書提出から効力発生までの日数)に直結するという点だ。

有価証券届出書の様式の選び方を誤ると、クロージングスケジュールに想定外の遅延が生じる可能性がある。

この記事では、有価証券届出書の3つの様式の違いと選択基準を整理していく。

特にスモールキャップ上場企業が見落としやすい「参照方式の周知性要件」については、具体的な数字を示して詳しく解説する。

有価証券届出書の3つの様式の基本構造

有価証券届出書には、企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)で定められた以下の3つの様式がある。

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様式通称根拠規定企業情報の記載方法
第2号様式通常方式開示府令第2号様式証券情報+企業情報をすべて記載
第2号の2様式組込方式開示府令第2号の2様式有報等の写しを届出書に綴り込む
(金融商品取引法第5条第3項)
第2号の3様式参照方式開示府令第2号の3様式有報等を「参照すべき旨」を記載し、実際の記載に代える
(金融商品取引法第5条第4項)

3つの様式の本質的な違いは企業情報をどう扱うかの一点だ。

通常方式はゼロから企業情報を書き起こす。

組込方式はすでに提出している有価証券報告書等の写しを物理的に有価証券届出書に綴り込む。

参照方式はそれらを「参照してください」と書くだけで実際の記載に代えることができる。

なぜ3つの様式があるかというと、上場企業はすでに有価証券報告書を定期的に提出しており、企業情報が投資家に広く知られているため、すべてを改めて書き起こす必要性が低いからだ。

その「企業情報の既知度」に応じて、記載の負担を軽減する仕組みが設けられている。

組込方式を利用するための要件

継続開示要件

組込方式を利用するには、継続開示要件を満たしている必要がある。

具体的には以下のいずれかを満たすことが求められる(開示ガイドライン5-26)。

原則

有価証券届出書の提出日の1年前の応当日(前年応当日)において有価証券報告書を提出していること、かつ前年応当日以後、有価証券届出書提出日までの間、適正に継続開示義務を履行していること。

例外(上場直後の会社等)

以下の双方に該当する場合は、前年応当日において有価証券報告書を提出していなくても継続開示要件を満たす。

  • 初めて有価証券届出書を提出した時点の直前事業年度の有価証券報告書の提出義務が免除されているため、前年応当日において有価証券報告書を提出していない
  • 前年応当日以後、有価証券届出書の提出日までに有価証券報告書を提出している

スモールキャップ企業が注意すべき点

上場から1年未満の会社は組込方式を使えない可能性がある。

前年応当日において有価証券報告書を提出していることが原則であるため、上場から1年未満の会社は継続開示要件を満たせず、通常方式によらざるを得ないケースがある。

また、過去に有価証券報告書の提出が遅延していたり、訂正報告書を提出していたりした場合も、「適正に継続開示義務を履行」していないとして要件を満たさない可能性がある。

参照方式を利用するための要件

参照方式は組込方式より記載の負担がさらに小さい。しかし利用できる会社は限られる。

参照方式を利用するためには、組込方式の要件(継続開示要件)に加えて、周知性要件を満たす必要がある。

周知性要件(国内上場会社の場合)

国内で株式を上場している会社の場合、以下のいずれかを満たすことが求められる。

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要件具体的な基準
①売買金額・時価総額基準上場株式の年間売買金額が100億円以上、かつ時価総額が100億円以上
②時価総額基準上場株式の時価総額が250億円以上
③社債発行実績基準過去5年間に有価証券届出書または発行登録追補書類を提出して募集・売出しが行われた社債の券面総額の合計が100億円以上
④法定優先弁済保証社債法令により優先弁済を保証されている社債の発行実績あり

(出典:開示ガイドラインアンダーソン・毛利・友常法律事務所「開示府令・開示ガイドラインの改正」2014年9月

スモールキャップ企業のほとんどは参照方式を使えない

この数字を見れば明らかだが、スモールキャップ上場企業の大半は参照方式の周知性要件を満たせない。

時価総額100億円未満・年間売買金額100億円未満の会社は①を満たせない。
時価総額250億円未満の会社は②も満たせない。
③④の社債発行実績を持つスモールキャップ企業もほぼ存在しない。

したがって、スモールキャップ上場企業が第三者割当増資で有価証券届出書を提出する場合の実務上の選択肢は、通常方式か組込方式の二択となる。

参照方式はそれなりの規模感の企業の選択肢だと理解しておいてよい。

【実務事例】参照方式で準備を進めていたが直前で組込方式に切り替えざるを得なかったケース

これは制度の説明だけでは伝わらない、実務上の落とし穴だ。

参照方式の周知性要件における「時価総額」は、届出書提出日の6か月前の日から提出日までのいずれかの日を算定基準日として計算する。

つまり、有価証券届出書提出日の時価総額だけを見ればよいわけではない。

実際に当事務所が関与した案件で、以下のような事態が発生した。

参照方式で準備を進めていた会社について利用適格を改めて計算したところ、「算定基準日を届出書提出予定日であるX年5月22日の6か月前から同日までのいずれかの日」として計算した場合、X-1年11月27日を基準日とすれば3年間の平均時価総額が100億円を超えるため参照方式の利用が可能だった。

しかし、万が一ローンチ日が延期となり5月28日以降になると、3年間の平均時価総額が100億円を超える日が一日もなくなり、参照方式の利用が不可能になるという状況が判明した。

結果としてこの案件は日程の再延期の可能性が生じた時点で、参照方式から組込方式への切り替えを余儀なくされた。

この事例が示す教訓は2つある。

  • 教訓①:参照方式の利用適格は「今日の時価総額」で判断できない
    算定基準日の選択肢が6か月分あるため、今日の株価だけで判断すると見誤る。
    過去6か月の株価推移をもとに算定基準日を慎重に選定する必要がある。
  • 教訓②:スケジュールの延期が様式変更を引き起こす
    増資のスケジュールは様々な事情で延期になりやすい。
    そのため、参照方式ギリギリで要件を満たしている状態でスケジュールが動くと、様式の変更が必要になることも可能性としては考えておかなければならない。
    また、様式変更になった場合には、参照方式から組込方式への変更は届出書の記載順序・項目構成自体が変わるため、届出書の大幅な作り直しが必要になる。届出書作成に慣れていない発行体にとってはかなりの負担になる。

参照方式で利用適格がギリギリの会社ほど、最初から組込方式を前提にスケジュールを組むことを推奨する。

有価証券届出書の様式と待期期間の関係

有価証券届出書の様式の選び方が重要なのは、待期期間(有価証券届出書提出から効力発生までの日数)が様式によって異なるからだ。

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様式待期期間根拠
通常方式中15日(原則)金融商品取引法第8条第1項
組込方式中7日に短縮可(継続開示要件充足の場合)開示ガイドライン8-2①②③
参照方式中7日に短縮可(継続開示要件+周知性要件充足の場合)同上

「中7日」「中15日」とは、提出日の翌日から起算して7日目・15日目が経過した日の翌日に効力が発生するという意味だ。提出日自体は日数に含まない。

具体例

  • 組込方式で月曜日に提出→翌々週の火曜日(中7日後の翌日)から効力発生
  • 通常方式で月曜日に提出→さらに1週間以上後(中15日後の翌日)から効力発生

増資のスケジュールを設計するうえで、この差は非常に大きい。

払込期日の設定・取締役会決議日・適時開示のタイミングなど、すべてのスケジュールが待期期間に左右されるため、どの様式を使うかを最初に確定させることが重要だ。

審査対象第三者割当の場合は待期期間の短縮不可

ただし重要な例外がある。

希薄化率25%以上または支配株主異動を伴う「審査対象第三者割当」の場合、組込方式・参照方式であっても待期期間の中7日への短縮は原則として認められない開示ガイドライン8-2④)。

スモールキャップ企業が第三者割当増資を行う場合、希薄化率が25%を超えるケースは珍しくない。

この場合、組込方式を利用できる要件を満たしていても、待期期間の短縮は受けられない。

つまり実質的に中15日の待期期間が生じることを前提にスケジュールを組む必要がある。

有価証券届出書全体のスケジュールを詳しく知りたい方は「第三者割当増資の全体スケジュール設計|取締役会決議から払込完了まで逆算で組む実務ガイド」も併せてご参照いただきたい。

有価証券届出書の様式の選び方|判断フローチャート

以下のフローに沿って確認することで、自社が選択すべき有価証券届出書の様式を判断できる。

STEP
有価証券報告書を1年以上継続して適正に提出しているか?
  • Yes → 【Step 2】へ
  • No → 【通常方式】一択
STEP
以下のいずれかを満たすか?
  • 年間売買金額100億円以上かつ時価総額100億円以上
  • 時価総額250億円以上
  • 過去5年の社債発行実績100億円以上
  • Yes → 【参照方式】が利用可能
  • No → 【組込方式】が利用可能
STEP
審査対象第三者割当(希薄化率25%以上 or 支配株主異動)か?
  • Yes → 待期期間の短縮不可(中15日で設計)
  • No → 待期期間を中7日で設計可

スモールキャップ企業の典型的なケースは「Step 1でYes → Step 2でNo → 組込方式 → Step 3でYes(希薄化25%以上)→ 待期期間短縮不可」という流れになることが多い。

通常方式を使わざるを得ないケースと作業量の実態

継続開示要件を満たしていても、以下のケースでは通常方式によらなければならない可能性がある。

  1. 上場から1年未満の会社
    前年応当日において有価証券報告書を提出していない場合、原則として組込方式を利用できない。IPO直後に資金調達を行う会社は特に注意が必要だ。
  2. 有価証券報告書に関して問題があった会社
    不適切会計が発覚して訂正有価証券報告書を提出した、あるいは提出が大幅に遅延したといった過去がある場合、「適正に継続開示義務を履行」していないとして組込方式の利用が認められない可能性がある。こうした事情がある会社は財務局に事前確認することが不可欠だ。
  3. 財務局から通常方式を求められた場合
    財務局の事前相談において、記載内容の性質上、通常方式によることが求められるケースがある。

通常方式が求める企業情報の記載項目

通常方式と組込方式の違いを「少し手間が増える程度」と軽く見ている発行体がいるが、実態はまったく異なる。

通常方式(第2号様式)では、以下の事項をすべて届出書に直接記載しなければならない。

  • 企業の概況
  • 事業の状況
  • 設備の状況
  • 提出会社の状況
  • 経理の状況(財務諸表含む)
  • 提出会社の株式事務の概要
  • 提出会社の参考情報

これらは有価証券報告書に記載する情報とほぼ同等であり、記載するだけで数十ページに及ぶ

財務諸表の再掲・注記事項の整理・各項目の最新情報への更新など、IR部門が相当の工数をかけなければ作成できない分量だ。

組込方式が求める企業情報の記載項目

組込方式(第2号の2様式)では、企業情報について直近の有価証券報告書・半期報告書をEDINETのデータとして提出すれば足りる

追完情報の箇所に、直近有価証券報告書提出以降に提出した臨時報告書をすべて貼り付ける必要はあるが、有価証券報告書の内容を一から書き起こす必要はない。

つまり通常方式と組込方式の作業量の差の本質は「有価証券報告書の内容を有価証券届出書に丸々書き起こすか否か」という一点に尽きる。

この差が発行体にとってどれほど大きいか、IR部門にリソースが少ないスモールキャップ企業であれば想像に難くないだろう。

財務局事前相談のタイミングも通常方式は「提出予定日の概ね1か月前」と組込方式の2週間前より長い。

増資の検討初期段階で自社が通常方式を使わざるを得ない可能性があるかを確認し、余裕をもったスケジュールを組むことが不可欠だ。

実務上の注意点|有価証券届出書の様式選び・確定は早期に

有価証券届出書の様式選び・確定は、財務局事前相談の日程設定・取締役会決議日・払込期日という全体スケジュールの設計に直結する。

様式が確定しないと以下が決まらない。

  • 財務局事前相談のタイミング(組込・参照方式は2週間前、通常方式は1か月前)
  • 有価証券届出書提出日から払込期日までの最短日数
  • 会社法上の株主通知・公告期間(株主総会決議を経ない場合、有価証券届出書提出から2週間の通知・公告期間が必要。組込・参照方式で待期期間が7日に短縮されても、この2週間は短縮されない)

増資の検討を開始した段階で「自社は組込方式を使えるか」「審査対象に該当するか」を早期に確認し、余裕をもったスケジュールを設計することが、スムーズなクロージングの第一歩だ。

様式を確定後、財務局への事前相談をするにあたり、事前に準備が必要な資料については「財務局・東証への事前相談|有価証券届出書提出前に準備すべきこと・聞かれること」をご参照いただきたい。

有価証券届出書の様式の選び方|まとめ

有価証券届出書の3つの様式の選択は単なる書式の問題ではなく、スケジュール全体を規定する重要な判断だ。

スモールキャップ上場企業の実務上の選択肢は通常方式か組込方式の二択であり、参照方式は時価総額・売買金額の面で大半の会社が利用できない。

また、希薄化率25%以上の審査対象案件では、組込方式であっても待期期間の短縮が認められず、中15日での設計が必要になる。

様式の確定→財務局事前相談の日程設定→全体スケジュール設計という順序で早期に動き出すことが、第三者割当増資を円滑に進める上で不可欠だ。

有価証券届出書の様式選択・スケジュール設計についてのご相談は清水法務事務所にお問い合わせください。自社の状況に応じた様式判断と財務局対応をサポートします。

FAQ(よくある質問)

スモールキャップ上場企業は参照方式を使えないのですか?

ほとんどのスモールキャップ企業は参照方式の周知性要件(年間売買金額100億円以上かつ時価総額100億円以上、または時価総額250億円以上等)を満たせないため、実務上は通常方式か組込方式の二択になります。

参照方式の利用適格は今日の時価総額で判断できますか?

できません。参照方式の周知性要件における時価総額は、有価証券届出書提出日の6か月前から提出日までのいずれかの日を算定基準日として計算します。過去6か月の株価推移全体を確認したうえで算定基準日を選定する必要があります。実際に、参照方式で準備を進めていたがスケジュールが数日延期になった結果、算定基準日として使える日がなくなり組込方式に切り替えざるを得なかった案件があります。参照方式ギリギリで要件を満たしている会社は、最初から組込方式を前提にスケジュールを設計することを推奨します。

参照方式から組込方式に途中で切り替えた場合、届出書の作り直しが必要ですか?

はい。参照方式(第2号の3様式)と組込方式(第2号の2様式)は記載の順序・項目構成が異なるため、様式変更の場合は届出書の大幅な作り直しが必要になります。有価証券届出書作成に慣れていない発行体にとってはかなりの負担であり、スケジュールにも影響します。

組込方式と通常方式で待期期間はどう違いますか?

組込方式は継続開示要件を満たす場合、待期期間を中7日に短縮できます。通常方式は原則として中15日の待期期間が生じます。ただし希薄化率25%以上の審査対象案件では、組込方式であっても中7日への短縮は原則認められません。

上場したばかりの会社は組込方式を使えますか?

上場から1年未満の会社は、前年応当日において有価証券報告書を提出していないため、原則として組込方式を利用できず、通常方式によることになります。ただし一定の例外規定がありますので、財務局に事前確認することをお勧めします。

訂正有価証券報告書を提出した経歴がある場合、組込方式は使えますか?

「適正に継続開示義務を履行」していることが要件のため、過去に不適切会計等で訂正報告書を提出した経歴がある場合は、組込方式の利用が認められない可能性があります。事前に財務局へ確認することが必要です。

審査対象第三者割当とは何ですか?

希薄化率が25%以上となる場合、または支配株主が異動する場合の第三者割当です。この場合、東証の企業行動規範上の手続き(独立した者による意見書の入手または株主意思確認)が必要になるほか、待期期間の短縮が原則として認められなくなります。詳細は「」で解説しています。

この記事は、関東財務局「有価証券届出書の作成に当たっての留意事項について(令和6年2月現在)」および企業内容等の開示に関する内閣府令・開示ガイドラインをもとに、有価証券届出書の作成実務に関与する行政書士が執筆しています。個別案件の判断は必ず専門家にご相談ください。

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