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【経営管理ビザ】現金がなくても資本金を3,000万円にする方法|剰余金の資本組入れとDES

現金なしで資本金3000万円にする方法|資本組入れとDESのイメージ

経営管理ビザの資本金要件が3,000万円に引き上げられて以降、既存のビザ保有者から「増資したいが、そんな現金はなし」という相談が増えている。

しかし、資本金を増やす方法は、新たに現金を払い込む増資だけではない。

会社法には、外部から現金を用意することなく資本金を増やせる手段がいくつか用意されている。

すでに会社の中にある剰余金や、オーナーが会社に貸し付けている借入金を、資本金に振り替える方法である。

本記事では、現金を伴わずに資本金を増やす代表的な2つの手段——剰余金の資本組入れDES(デット・エクイティ・スワップ)——を、条文と手続に即して解説する。

組織再編(合併・株式交換)を検討する前に、まずこの2つで要件を満たせないかを確認するのが、実務の出発点である。

目次

前提:資本金を増やす方法は増資だけではない

経営管理ビザの資本金要件について、まず確認しておくべき点がある。

要件で見られるのは登記事項証明書に記載された資本金の額であり、純資産の額でも事業用資産の総額でもない。

出入国在留管理庁のQ&A問7も、資本準備金・資本剰余金・利益剰余金は「事業の用に供される財産の総額」に含まれないと明言している。

したがって課題は、いかにして登記上の資本金を3,000万円にするか、という一点に絞られる。

資本金を増やす方法は、大きく次のように分類できる。

スクロールできます
方法新たな現金手続の重さ
募集株式の発行(通常の増資)必要
剰余金の資本組入れ不要
DES(借入金の資本振替)不要
株式対価の組織再編(合併・株式交換)不要

本記事では、このうち現金を要さず、かつ組織再編より手続が軽い剰余金の資本組入れDESを扱う。

なお、対象会社を株式対価で合併・株式交換して資本金を積む方法については、「経営管理ビザの3,000万円要件は「合併・株式交換」で満たせる|資本金要件の実務対応を行政書士が解説」で詳述している。

組織再編は手続が重いため、まず本記事の2つで足りないかを確認するのが順序として正しい。

方法1:剰余金の資本組入れ

仕組み

黒字を継続してきた会社であれば、貸借対照表の純資産の部に繰越利益剰余金が蓄積されている。

この剰余金を減少させ、その分を資本金に振り替えるのが、剰余金の資本組入れである。

会社法第450条第1項は「株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる」と定める。

純資産の内訳が組み替わるだけで、会社の外から現金が入るわけではない。

しかし登記上の資本金は確実に増加する。

たとえば資本金500万円・繰越利益剰余金2,500万円の会社であれば、剰余金2,500万円を資本組入れすることで、資本金3,000万円・繰越利益剰余金0円となる。

純資産の総額3,000万円は変わらないが、その内訳が資本金に集約される

手続——普通決議のみ、債権者保護手続は不要

剰余金の資本組入れの手続は、極めて軽い。

会社法第450条第2項により、株主総会の普通決議で、減少する剰余金の額と効力発生日を定めればよい。

減資(資本金の額の減少)が特別決議かつ債権者保護手続を要するのとは対照的に、剰余金の資本組入れは債権者保護手続が不要である。

これは、剰余金を資本金に振り替えることが債権者にとって有利な方向の変動(会社に留保される財産が増える方向)だからである。

会社財産が流出するわけではないため、債権者を害さない。

オーナー1名の会社であれば株主総会は実質的に一瞬で終わり、あとは資本金変更の登記のみである。

現金を要さず外部資金も不要という点で、要件を満たせる会社にとっては最も低コストな選択肢となる。

なお、平成21年の会社計算規則改正により、資本組入れできる剰余金は「その他資本剰余金」に限られず、「その他利益剰余金(繰越利益剰余金・任意積立金)」も対象となっている(会社計算規則第25条)。

中小企業で蓄積されているのは通常、繰越利益剰余金であるから、この改正により実務上の使い勝手が確立している。

登録免許税

資本金増加の登録免許税は、増加した資本金の額の1,000分の7(最低3万円)である。

2,500万円を組み入れる場合は17万5,000円となる。

限界——利益剰余金がなければ使えない

この方法の限界は明白である。

繰越利益剰余金が蓄積されていなければ使えない

設立間もない会社や、赤字が続いている会社では、そもそも資本組入れの原資がない。

また、資本組入れをすると剰余金が減少するため、その後の配当余力が失われる点にも注意が必要である。

資本金3,000万円・利益剰余金0円という構成になれば、以後は分配可能額がなくなり配当ができなくなる。

オーナーが配当で資金を回収してきた会社では、この影響を事前に説明しておくべきである。

方法2:DES(デット・エクイティ・スワップ)

仕組み

中小企業では、オーナーが会社に運転資金を貸し付けているケースが非常に多い。

貸借対照表の負債の部に「役員借入金」「短期借入金(代表者)」として計上されているものである。

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、この借入金(債務=Debt)を、資本(エクイティ=Equity)に転換する(スワップ)手法である。

オーナーが持つ会社への貸付債権を会社に現物出資し、その対価として株式の発行を受ける。

結果として、負債であった役員借入金が資本金に振り替わる。

たとえば資本金500万円で、オーナーからの役員借入金が2,500万円ある会社であれば、この借入金2,500万円をDESにより資本金に振り替えることで、資本金3,000万円となる。

会社の外から現金は入らないが、負債が減少し資本金が増加する。

手続——現物出資だが検査役調査は原則不要

DESは、金銭債権という「金銭以外の財産」を出資するものであるから、法形式上は現物出資にあたる。

現物出資は、財産が過大評価されると他の株主を害するおそれがあるため、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要となる(会社法第207条第1項)。

検査役調査には時間と費用がかかり、実務上の大きな負担となる。

しかし、DESについては検査役調査を不要とする例外が用意されている。

会社法第207条第9項第5号は、弁済期が到来した金銭債権を、その負債の帳簿価額(券面額)を超えない価額で出資する場合には、検査役の調査を要しないと定めている。

役員借入金をその帳簿価額のまま資本金に振り替える通常のDESは、この要件を満たすため、検査役調査なしで実行できる

現物出資額が500万円を超えても、金銭債権であればこの例外を使える点が実務上重要である。

なお、対象債権の弁済期が到来していない場合でも、債権者(オーナー)が期限の利益を放棄すれば、弁済期が到来した債権と同様に扱われ、検査役調査を省略できると解されている。

実務では、この期限の利益放棄を明記した書面を準備するのが通常である。

登記申請の際には、検査役調査が不要であることを証するため、当該金銭債権の額・債権者名が記載された会計帳簿(総勘定元帳等)または税理士等の証明書の添付が求められる。

DESの税務リスク——債務消滅益に注意

DESには、会社法上の手続とは別に、税務上の重大な論点がある。

これを見落とすと、資本金は増えたが多額の法人税が発生する、という事態になる。

券面額説と評価額説

DESにおける債権の評価には、二つの考え方がある。

  • 券面額説:債権の帳簿価額(券面額)で評価する
  • 評価額説:債権の実際の価値(時価)で評価する

会社が健全で、債権が満額回収可能であれば、券面額と時価は一致し、問題は生じない。

問題は、会社が債務超過等にあり、債権の時価が券面額を下回っている場合である。

税務上は評価額説(時価)を基礎とするため、券面額と時価の差額が債務消滅益として認識され、法人税の課税対象となる。

たとえば、券面額2,500万円の役員借入金だが、会社が債務超過で債権の時価が1,000万円しかない場合、差額1,500万円が債務消滅益として課税されうる。

経営管理ビザ案件での含意

ここに、経営管理ビザ案件特有のジレンマがある。

DESで資本金を作りたいと考える会社は、資金繰りに余裕のない会社であることが多い。

そうした会社ほど債務超過に陥っている可能性が高く、まさにその場合に債務消滅益課税のリスクが顕在化する。

会社に繰越欠損金があれば債務消滅益と相殺できるため課税が生じないこともあるが、欠損金の額を超える部分には課税が及ぶ。

DESを実行する前に、債権の時価評価と、欠損金との相殺可能性を税理士に確認することが不可欠である。

現金払込型DESという選択肢とその危うさ

債務消滅益課税を避けるための手法として、現金払込型DES(疑似DES)がある。

これは、債権を現物出資するのではなく、次の順序で行う方法である。

  1. オーナーが会社に現金を払い込み、会社は株式を発行する(通常の増資)
  2. 会社は払い込まれた現金で、オーナーへの借入金を弁済する

現物出資型では債務消滅益が生じうるのに対し、現金払込型では原則として債務消滅益が発生しないため、税務上の利点がある。

しかし、この手法には手続の安定性を欠く重大なリスクがある。

実際には現金が会社に留まらず、すぐにオーナーへ還流するため、「見せ金」と評価されるおそれがある。

見せ金と判断されれば、増資自体が無効とされるリスクがある。

加えて、会社が他の債務を抱えている場合、オーナーへの弁済行為が詐害行為取消(民法424条)や、倒産時の否認(破産法162条等)の対象となるリスクもある。

経営管理ビザ案件では、この「見せ金」の問題が、会社法上のリスクにとどまらず、入管審査上のリスクに直結する。

次章で述べる。

入管審査における「見せ金」と事業実体の問題

改正後の経営管理ビザ審査は、資本金の額面だけでなく、その資金の実在性・出所・事業への充当を実体的に確認する運用となっている。

この観点から本記事の各手法を検討する際は、二つの異なる論点を区別する必要がある。

一つは「見せ金」(払込みの仮装)の問題、もう一つは「キャッシュインを伴わない」という問題である。

両者は混同されやすいが、意味もリスクの所在も異なる。

論点1:「見せ金」(払込みの仮装)——現金払込型DESに固有

「見せ金」とは、払込みの外形を作るために一時的に資金を動かし、実体のない資本を仮装することをいう。

問題の本質は「現金が入ったかどうか」ではなく、払込みが仮装かどうか(資本の裏付けとなる財産の変動が実在するか)にある。

この観点で、現物出資型のDESと現金払込型DESは決定的に異なる。

現物出資型のDESは、オーナーが持つ貸付債権を現物出資し、その債権が消滅することで資本に振り替わる。

現金は動かないが、役員借入金という負債が実際に消滅し、その反対側で資本が実際に増えるという財産変動が現実に生じている。

仮装された払込みは存在しないため、見せ金の問題は原理的に生じにくい。

これに対し現金払込型DESは、①現金を払い込んで増資し、②その現金で直ちにオーナーへ借入金を返済する、という現金の往復を作る。

経済的な結果は現物出資型と同じだが、払い込まれた現金が会社に定着せず同じ人物へ戻る外形は、払込みの仮装=見せ金の典型的な形と一致する

会社法上も増資無効のリスクを負い、入管審査でも見せ金類似と評価されかねない。同じDESという名称でも、見せ金リスクの有無という点で両者はまったく異なる。

論点2:「キャッシュインを伴わない」——DES・現金払込型に共通する説明課題

一方、DESは現物出資型・現金払込型のいずれであっても、会社に新たな事業資金が流入するわけではない

役員借入金が資本金に変わっても、会社が事業に使える現預金は1円も増えない。

この点は剰余金の資本組入れも同様である。

これは見せ金(仮装)とは別の問題である。

資本の裏付けは実在する(債務が実際に消滅している)のだから仮装ではないが、資本金3,000万円という数字に見合う事業原資としての現預金が伴っていない

改正後の審査は「事業の用に供される財産」の実在と資金の出所を確認するため、DESで資本金要件を形式的に満たす場合には、事業計画と実際の資金状況を整合的に説明できる準備をしておくべきである。

DESの財務面での利点

もっとも、DESには財務面での積極的な利点もある。

負債(役員借入金)が減少し純資産が増加するため、財務指標としては改善方向に働く。

経営管理ビザの事業継続性の判断は債務超過か否かを主要な分かれ目としており(入管庁ガイドライン「経営・管理の在留資格の明確化等について」)、DESは債務超過の解消・回避に資する。

見せ金リスクを負わずに債務超過を改善できる点は、現金払込型にはないDES(現物出資型)の強みである。

剰余金の資本組入れは最も安全

本記事の手法の中で、入管審査上最も安全なのは剰余金の資本組入れである。

過去に実際に稼いだ利益の蓄積を資本金に振り替えるものであり、利益剰余金は事業活動の成果として実在してきた財産である。

見せ金の問題が生じないことはもちろん、その利益が事業から生み出されてきたという実績自体が事業実体の裏付けとなる。

どの方法を選ぶか——判断の順序

現金を用意できない会社が資本金3,000万円を目指す場合、次の順序で検討するのが合理的である。

第一に、決算書で繰越利益剰余金を確認する。
利益剰余金が2,500万円以上あれば、剰余金の資本組入れだけで要件を満たせる。
手続が最も軽く、税務リスクも見せ金リスクもない。まずここを確認する。

第二に、役員借入金を確認する。
利益剰余金が不足していても、オーナーからの借入金があればDESで資本金に振り替えられる。
ただし会社が債務超過の場合は債務消滅益課税のリスクがあるため、債権の時価と欠損金を税理士に確認する。

第三に、両者を組み合わせる。
利益剰余金1,500万円とDES可能な役員借入金1,000万円があれば、合わせて2,500万円を資本金に組み入れられる。
単独で届かなくても、組み合わせで3,000万円に到達できる場合がある。

第四に、いずれも不足する場合に、はじめて外部資金の増資や組織再編を検討する。
対象会社を株式対価で合併・株式交換して時価純資産を資本金に計上する方法は、手続が重く税務・許認可の検討も要する。
自社内に原資がない場合の最終手段と位置づけるのが正しい。

つまり、組織再編は最初に検討する手段ではなく、自社内の原資(利益剰余金・役員借入金)を使い切ってもなお不足する場合の選択肢である。

相談を受けた際は、まず決算書の純資産の部と負債の部を確認することから始めるべきである。

まとめ

  • 経営管理ビザで見られるのは登記上の資本金の額であり、これを増やす方法は現金増資だけではない
  • 剰余金の資本組入れ(会社法450条)は、繰越利益剰余金を資本金に振り替える方法。普通決議のみ・債権者保護手続不要・現金不要で、要件を満たせる会社には最も低コスト
  • DES(会社法207条9項5号)は、役員借入金を資本金に振り替える方法。負債が消滅する実体変動があるため見せ金の問題は生じにくく、債務超過の改善にも資する。ただし検査役調査は原則不要でも、債務超過の場合は債務消滅益課税に注意
  • 現金払込型DESは債務消滅益を避けられるが、現金の往復により見せ金・詐害行為のリスクがあり、入管審査上も慎重を要する
  • 改正後の審査は資金の実在性・事業実体を見るため、DESで形式的に要件を満たす場合は事業計画との整合を説明できる準備が必要
  • 検討の順序は、①剰余金の資本組入れ → ②DES → ③両者の組合せ → ④外部増資・組織再編。組織再編は最終手段である

「そんな現金はない」という相談であっても、決算書を確認すれば、利益剰余金や役員借入金という形で資本金の原資が社内に眠っていることは少なくない。

組織再編という大掛かりな手段に進む前に、まずこの2つで要件を満たせないかを確認することが、依頼者の負担を最小化する実務対応である。

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