2025年10月16日施行の改正により、在留資格「経営・管理」の資本金要件は500万円から3,000万円へと大幅に引き上げられた。
既存の経営管理ビザ保有者にとって、この差額2,500万円をどう手当てするかは、更新許可の可否を左右する死活問題である。
「増資するしかないのか」と考える方が大半であるが、実務上、組織再編(吸収合併・株式交換)を用いれば、新たに現金を用意することなく資本金3,000万円要件を満たせる場合がある。
本記事では、経営管理ビザの3,000万円要件について、会社法・会社計算規則・法人税法の条文および出入国在留管理庁の公表資料に基づき、M&A実務と入管実務の双方の観点から解説する。
経営管理ビザの3,000万円要件とは
改正の概要
出入国在留管理庁は2025年(令和7年)10月16日、「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」(上陸基準省令)等の一部改正を施行した。改正条文および改正概要は入管庁サイトで公開されている(改正概要(PDF)/改正省令条文(PDF))。
主な変更点は次のとおりである。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 事業規模 | 資本金500万円以上 または 常勤職員2名以上 | 資本金3,000万円以上 かつ 常勤職員1名以上 |
| 日本語能力 | 要件なし | 申請人または常勤職員が参照枠B2相当以上 |
| 経歴 | 要件なし | 経営・管理について3年以上の経験、または関連分野の博士・修士・専門職の学位 |
| 事業計画書 | 要件なし | 中小企業診断士・公認会計士・税理士による確認が必要(在留資格決定時) |
従来認められていた「これらに準ずる規模」という緩和規定は削除された。
「相当程度の日本語能力(参照枠B2相当)」の定義
改正ガイドラインは、日本語能力について「『日本語教育の参照枠』におけるB2相当以上の日本語能力」と定めている。抽象的な基準に見えるが、出入国在留管理庁は立証方法を具体的に列挙しており、日本人または特別永住者以外の者については、以下のいずれかに該当することを確認するとされている。
- 日本語能力試験(JLPT)N2以上の認定を受けていること
- BJTビジネス日本語能力テストにおいて400点以上を取得していること
- 中長期在留者として20年以上日本に在留していること
- 日本の大学等高等教育機関を卒業していること(高等専門学校・専門学校を含む。ただし恒常的に外国語で授業を行う課程および通信課程を除く)
- 日本の義務教育を修了し高等学校を卒業していること(小学校・中学校の義務教育の修了が必要であり、中学校から編入した場合は該当しない)
なお「日本語教育の参照枠」は、文化庁文化審議会国語分科会が報告として取りまとめたものであり、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を踏まえて日本語教育の目標を6段階(A1〜C2)で示す枠組みである。
B2はその上から3番目に位置づけられる。
この要件は申請人本人が満たす必要はなく、常勤職員が満たしていてもよい。
しかも日本語能力の文脈における「常勤職員」には、別表第一の在留資格で在留する外国人も含まれる(改正ガイドライン注1)。
日本人を1名常勤雇用していれば、常勤職員要件と日本語能力要件を同時に充足できるため、実務上はこの形が最も簡明である。
3年間の経過措置
改正前から経営管理ビザで在留している者には、施行日から3年間(令和10年10月16日まで)の経過措置がある。
この期間中は、新基準を満たさないことのみをもって更新不許可となることはない(入管庁Q&A問1)。
さらに同Q&A問3は、施行日から3年経過後の更新申請時においても、経営状況が良好であり、法人税等の納付義務を適切に履行し、次回更新時までに新基準を満たす見込みがあるときは、その他の在留状況を総合的に考慮して許否判断を行うと明示している。
3,000万円に満たないことのみをもって一律に不許可処分となるものではない。
ただし「見込み」の立証には具体的な資金計画を要する。準備を先送りできる話ではない。
【最重要】3,000万円は「資本金の額」であり「純資産」ではない
本記事で最も強調したい論点である。
上陸基準省令第2号ロは「申請に係る事業の用に供される財産の総額(資本金の額及び出資の総額を含む。)が三千万円以上であること」と規定するが、法人の場合、この判定は登記事項証明書に記載された資本金の額のみで行われる。
出入国在留管理庁のQ&Aは、この点をきわめて明確に述べている。
- 問7:資本準備金、資本剰余金、利益剰余金も「事業の用に供される財産」に含まれるのか
→ 答:含まれない。法人の場合は払込済資本の額(資本金の額)または出資の総額を指す - 問8:資本金の額に従業員の給与額や事務所の維持費なども合算して3,000万円を超えればよいか
→ 答:法人の場合は資本金の額または出資の総額で判断するため、合算はできない - 問5:確認方法
→ 答:登記事項証明書等により確認する
したがって、次の理解が実務上決定的に重要となる。
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 純資産が3,000万円あればよい | 資本金の額で判定される |
| 資本準備金と合わせて3,000万円ならよい | 資本準備金は算入されない |
| 内部留保(利益剰余金)が厚ければよい | 利益剰余金は算入されない |
| 事業用資産の総額で判断される | 法人は資本金の額のみ(個人事業主のみ投下総額で判断) |
この帰結として、実務上は次の2点に注意を要する。
第一に、増資の際に「払込額の2分の1を資本準備金に計上する」という一般的な構成は使えない。
会社法第445条第2項は払込額の2分の1を超えない額を資本金として計上しないことを認めるが、この構成をとると登記上の資本金は払込額の半額となり、要件充足には倍額の払込みが必要になる。
払込額の全額を資本金に計上する旨を募集事項で定めるべきである。
第二に、利益剰余金が厚い会社は「資本組入れ」で対応できる。
会社法第448条・第450条により、株主総会決議で剰余金を資本金に振り替えることが可能である。
外部資金を一切要さずに登記上の資本金を増やせる唯一の手段であり、黒字を継続してきた会社にとっては最も低コストな選択肢となる(登録免許税は増加資本金の1,000分の7。登録免許税法別表第一)。
組織再編で資本金を増やせる法的根拠
よくある誤解:「合併すれば消滅会社の資本金が引き継がれる」
実務上きわめて多い誤解を正しておきたい。
吸収合併をしても、消滅会社の資本金がそのまま存続会社の資本金に加算されるわけではない。
会社計算規則第35条第2項は次のように定める。
吸収合併存続会社の資本金及び資本剰余金の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で、吸収合併存続会社が吸収合併契約の定めに従いそれぞれ定めた額とし、利益剰余金の額は変動しないものとする。
つまり、増加額の上限となるのは消滅会社の「資本金」ではなく「株主資本等変動額」であり、その範囲内でいくらを資本金に計上するかは合併契約で任意に決められるという構造である。
「株主資本等変動額」とは何か
聞き慣れない用語であるため、平易に説明する。
合併とは、要するに「消滅会社という財産のかたまりを、存続会社が自社の株式と引き換えに受け取る取引」である。
ここで、存続会社が受け取る財産のかたまりの正味の価値、すなわち「資産から負債を差し引いた残り」(純資産)の金額が株主資本等変動額である。
たとえば、消滅会社の資産が1億円、負債が7,000万円だとすると、正味の価値は3,000万円。これが株主資本等変動額であり、存続会社が資本金として計上できる金額の上限となる。
重要なのは次の3点である。
- 上限であって、この金額が自動的に資本金になるわけではない。
3,000万円のうち全額を資本金にしてもよいし、1,000万円だけを資本金にして残り2,000万円を資本剰余金にしてもよい。どう配分するかは合併契約で自由に決められる(経営管理ビザの要件充足が目的なら、全額を資本金に計上すべきである) - 消滅会社の資本金の額は無関係である。
消滅会社の資本金が3,000万円であっても、負債が資産を上回っていれば(債務超過であれば)、正味の価値はマイナスとなり、存続会社の資本金は1円も増えない。会社計算規則第35条第2項ただし書は、株主資本等変動額が零未満の場合には資本金・資本準備金・利益準備金の額は変動しないと明記している - 利益剰余金は増えない。
合併は資本取引であるため、消滅会社にどれだけ内部留保があっても、存続会社では資本金または資本剰余金として受け入れられる
株主資本等変動額は「時価」か「簿価」か
会社計算規則第35条第1項は、株主資本等変動額の算定方法を合併の性質によって区分している。
ここに対価の要件を加えて整理すると次のとおりである。
| 合併の類型 | 対価 | 算定基礎 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| 支配取得に該当 | 株式(全部または一部) | 対価または対象財産の時価 | 資本関係のない第三者との合併。 含み益を資本金に計上できる |
| 支配取得に該当 | 現金のみ | 株主資本等変動額が生じない。 資本金は増えない | |
| 共通支配下関係 | 株式(全部または一部) | 対価または対象財産の簿価 | グループ内再編。 簿価純資産が上限 |
| 共通支配下関係 | 現金のみ | 株主資本等変動額が生じない。 資本金は増えない | |
| 100%子会社の吸収合併 | 無対価(対価交付不可) | 株主資本等変動額が生じない。 資本金は増えない |
ここが本記事の核心である。
支配関係のない会社同士の合併(支配取得)において、対価に存続会社の株式を用いる場合に限り、消滅会社の時価純資産を基礎に株主資本等変動額を算定でき、その範囲で資本金を計上できる。
なお「支配取得」とは、会社が他の会社またはその事業に対する支配を得ることをいう(会社計算規則第2条第3項第35号)。
支配関係のない第三者との合併がこれに該当する。
なお、共通支配下関係とは、同一の者(会社に限らず個人を含む)に最終的に支配されている企業間の関係を指す。
そして、「支配」とは必ずしも資本関係である必要はなく、資本関係がなくても支配関係ありと認められるケースがあることには注意されたい。
例えば、X社、Y社の間に資本関係が全くなくても、X社、Y社のオーナーがZ氏という個人である場合は、X社とY社は共通支配関係に該当する。
つまり、経営管理ビザとの関係でいうと、同一オーナーが複数の法人を有している場合、その法人同士を吸収合併すると存続会社は消滅会社の簿価純資産を基礎に算定でき、存続会社の資本金をその範囲で計上ができるということになる。
対価に「株式」が含まれることが絶対条件
会社計算規則第35条が適用されるのは、「吸収型再編対価の全部又は一部が吸収合併存続会社の株式又は持分である場合」に限られる。
会社法第749条第1項第2号は合併対価として金銭(交付金合併)も認めているが、対価が全額現金の場合、株主資本等変動額そのものが発生せず、存続会社の資本金は1円も増加しない。
現金で会社を買うことは、会計上は単なる資産の取得であって、資本の受入れではないからである。
また、100%子会社を吸収合併する場合、消滅会社の株主は存続会社自身であり、会社法第749条第1項第2号かっこ書により自己に対価を交付できないため、実務上は無対価合併となる。
この場合も資本金は増えない。
「まず現金で買収して子会社化し、その後に合併する」という二段階では資本金を増やせない点は、設計上の重大な落とし穴である。
なお合併の登記実務では「資本金の額の計上に関する証明書」の添付を要し、資本金増加額が会社計算規則第35条第1項の株主資本等変動額の範囲内で合併契約に従い定められていることを証明する。
申請書の記載例および証明書の様式は法務局が公開している(株式会社合併による変更登記申請書(法務省))。
吸収合併で資本金3,000万円を作る方法
基本スキーム
A社:経営管理ビザ保有者Aが経営。資本金500万円
X社:A社と支配関係なし。時価純資産3,000万円
A社を存続会社、X社を消滅会社とし、X社株主に対してA社株式を交付する吸収合併を行うと、次のようになる。
- 支配関係がないため「支配取得」に該当し、株主資本等変動額は時価純資産ベースで約3,000万円
- 会社計算規則第35条第2項により、その全額を資本金に配分する旨を合併契約に定める
- A社の資本金は500万円+3,000万円=3,500万円
新たな外部資金はゼロである。
X社の事業純資産という実在の財産が資本金の裏付けとなるため、いわゆる「見せ金」の疑いとも無縁であり、実体重視となった改正後の審査において大きな利点となる。
税務上の取扱い(適格・非適格)
会社法・会社計算規則上の処理と、法人税法上の適格性判定は別の軸である。
ここを混同すると設計を誤る。
支配関係のない会社同士の合併が適格合併となるには、共同事業要件(法人税法第2条第12号の8ハ、法人税法施行令第4条の3第4項)を満たす必要がある。
主な要件は次のとおり。
- 事業関連性要件(両社の事業に関連性があること)
- 事業規模要件(おおむね5倍以内)または経営参画要件(消滅会社の役員が存続会社の役員となること)
- 従業者引継要件(おおむね80%以上)
- 事業継続要件
- 株式継続保有要件
金銭等不交付要件があるため、対価に現金を混ぜると原則として非適格となり、消滅会社の資産の含み益に法人税が課税される。
含み益が大きい会社ほど、対価は株式のみとすべきである。
組織再編税制の全体像については、国税庁の法人税基本通達第1章第4節(組織再編成に係る所得の金額の計算)も参照されたい。
なお、適格合併であっても、会計・登記上の資本金は時価ベースで計上できる。
税務上の「資本金等の額」は消滅会社のそれを引き継ぐため、会計と税務で資本金の額が乖離する点には留意を要する。
入管審査で確認されるのは登記事項証明書上の資本金である。
株式継続保有要件の正しい理解
実務でよく誤解されるのが継続保有要件である。
- 保有を求められるのは消滅会社の株主である(存続会社の既存株主には要件なし)
- 消滅会社の株主が50人以上の場合はこの要件自体が課されない
- 「全員が全株」ではなく、交付株式の全部を継続保有すると見込まれる株主が、発行済株式総数の80%以上を保有していればよい
- 保有期間の定めはない。合併時点における「見込み」の判定である
最後の点は特に重要である。
「1年経ってから売却すれば問題ない」というものではない。
合併時に売却の予定・合意が存在すれば、実行が何年後であっても見込みは否定される。
逆に、合併時に予定がなく、その後の事情変更で売却に至った場合は、遡って適格性が覆るものではない。
株式交換という選択肢
株式交換でも資本金は増やせる
意外に知られていないが、株式交換でも同じことができる。
会社計算規則第39条は第35条とパラレルな構造をとっており、対価が完全親会社の株式である場合、株主資本等変動額(支配取得なら時価、共通支配下なら簿価がベース)の範囲内で、親会社が株式交換契約の定めに従い資本金への計上額を決められる。
なお2021年施行の改正会社法で新設された株式交付(会社法第774条の2以下)についても、会社計算規則第39条の2が同様の構造を定めている。
株式交付は対象会社を100%子会社にせずとも自社株式を対価に子会社化できる制度であり、対象会社の少数株主が反対をしている場合や、対象会社に他の株主を残したい場合の選択肢となる。
吸収合併と株式交換の比較
| 項目 | 吸収合併 | 株式交換 |
|---|---|---|
| 対象会社 | 法人格が消滅 | 100%子会社として存続 |
| 資本金増加 | 可(計規35条) | 可(計規39条) |
| 債権者保護手続 | 必須(官報公告等、1か月以上) | 原則不要 |
| 許認可 | 原則として承継されない | そのまま維持 |
| 簿外債務 | 包括承継(すべて引受け) | 子会社内に留まる |
| 繰越欠損金 | 適格なら制限付きで引継可 | 引継ぎ不可 |
| 法人維持コスト | 1社分 | 2社分 |
| 撤退の可否 | 困難(会社分割が必要) | 子会社を再売却可能 |
許認可事業を営む会社を対象とする場合、株式交換の優位性は決定的である。
許認可デューデリジェンスの観点からも、法人格が維持される意義は大きい。
【重要】株式交換だけではビザ要件を満たせない場合がある
最も見落とされやすい落とし穴である。
株式交換で親会社の資本金を3,500万円にしても、子会社となったX社の資本金は1円も動かない。
したがって、X社の元オーナーがX社の代表取締役として経営管理ビザを維持する場合、審査で確認されるのはX社の登記事項証明書に記載された資本金500万円であり、親会社の資本金は要件充足の根拠とならない。
この点について、入管庁Q&A問11は決定的な回答を示している。
複数の会社の経営・管理に従事する場合、それらの会社の資本金を合算して3,000万円以上となっても要件は満たされず、いずれか一つの会社の規模が資本金3,000万円以上である必要があるとされている。
グループ全体での合算は認められない。
したがってこの場合は、株式交換に加えて親会社からX社への第三者割当増資(2,500万円)を行い、X社自体の資本金を3,000万円にする必要がある。
100%親子関係であれば割当先は親会社のみであり、既存株主の希薄化もなく手続は軽微である。
経営者が2名の場合、資本金は6,000万円必要か
合併により、経営管理ビザ保有者2名が同一会社の役員となるケースがある。
この場合、資本金は1名につき3,000万円、合計6,000万円が必要となるのだろうか。
結論:資本金の要件は「1社につき3,000万円」であり、人数分の加算は求められていない
上陸基準省令第2号ロは「申請に係る事業の用に供される財産の総額が三千万円以上であること」と規定しており、要件の主語は事業(会社)であって申請人ではない。
改正ガイドラインおよびQ&Aのいずれにも、経営者の人数に応じて資本金を加算すべき旨の記載はない。
したがって、資本金3,500万円の1社に経営管理ビザ保有者が2名在籍する構成は、資本金要件との関係では両名とも充足していることになる。
ただし「共同経営者」としての審査は別途行われる
もっとも、資本金要件を満たすことと、2名それぞれが「経営・管理」の在留資格に該当する活動を行っていると認められることは別問題である。
入管庁Q&A問23は、共同経営者がいる場合の判断枠組みを次のとおり示している。
- 事業の規模や業務量の状況を勘案して、それぞれの外国人が事業の経営または管理を行うことについて合理的な理由が認められること
- 事業の経営または管理に係る業務について、それぞれの外国人ごとに従事することとなる業務の内容が明確になっていること
- それぞれの外国人が経営または管理に係る業務の対価として報酬額の支払いを受けることとなっていること
これらを勘案して、当該活動が経営または管理に当たるか否かが判断される。
実務上の含意は明確である。
資本金3,500万円・常勤職員1名程度の事業規模に、経営者が2名必要である合理性を、事業計画書と組織図で説明できなければならない。
逆に言えば、旧A社事業と旧X社事業を統合会社の二事業部門として存続させ、AとXがそれぞれを管掌し、それぞれに相応の役員報酬を支払う構成であれば、上記3要件はいずれも説明可能である。
合併により事業規模・業務量が実際に拡大していること自体が、共同経営の合理性を裏づける事情となる点も見逃せない。
なお、管理者として活動する場合も資本金要件は必要
入管庁Q&A問10は、申請人が「管理者」として活動する場合であっても資本金等の要件を満たす必要があるとしている。
出資者ではなく雇われの管理職として在留する場合でも、その会社の資本金が3,000万円以上でなければならない。
双方の経営者がビザを保有している場合のスキーム比較
経営管理ビザ更新におけるM&A実務で頻出するのが、買収側・売却側の双方に経営管理ビザ保有者がいるケースである。
A社:経営管理ビザ保有者A(資本金500万円、時価純資産5,000万円)
X社:経営管理ビザ保有者X(資本金500万円、時価純資産3,000万円)
前章のとおり資本金の人数分加算は不要であるが、A・Xが別々の会社に所属し続けるのであれば、それぞれの会社が3,000万円を満たす必要がある(合算不可)。
したがって設計の分岐は「箱を一つにするか、二つのままにするか」となる。
【スキーム1】吸収合併で「箱を一つにする」
A社がX社を株式対価で吸収合併し、資本金3,500万円の1社に統合。A・X双方が同一会社の共同経営者となる。
- 必要な外部資金:ゼロ
- 資本金要件は1社3,500万円で両名分をカバー
- 法人維持コストは1社分
- X社の繰越欠損金を取り込める可能性あり
リスク:前章のQ&A問23の枠組みで、共同経営の合理性・業務分担の明確性・双方への報酬支払いを立証する必要がある。
【スキーム2】株式交換+子会社増資の二段構え
- A社がX社を株式交換で完全子会社化。X社の時価純資産3,000万円を資本金に計上し、A社の資本金を3,500万円とする
- A社からX社へ2,500万円を払い込み、X社の資本金を3,000万円とする
- Aは親会社の経営者、Xは子会社の経営者として、それぞれ1社1経営者という審査上きわめてクリーンな構図を維持できる
- 共同経営者としての合理性説明が不要
- 手続が軽く、許認可も温存される
デメリット:現金2,500万円が必要であり、A社の時価純資産5,000万円が不動産等の含み益で構成されている場合は実行できない。
また法人維持コストが2社分かかり続ける。
実務上の判定
A社に現金2,500万円の払込余力があるなら、スキーム2(株式交換)を推奨する。
この案件の目的はA・X双方の在留資格の防衛であり、共同経営者2名の必要性を審査官に説得するという不確実性を抱えるスキーム1に対し、スキーム2は疑義の生じない形を作れるからである。
法人維持コストや資金拘束は金銭で解決できる差であるが、更新不許可は金銭で解決できない。
払込余力がなければ、スキーム1(吸収合併)が実質的に唯一の選択肢となる。
実行前に必ず確認すべき論点
① 時価純資産の評価根拠
「時価ベースで3,000万円」を登記・会計で通すには評価の裏付けを要する。
不動産の含み益や営業権を織り込むのであれば、不動産鑑定評価書や第三者による株価算定書を取得しておくべきである。
過大な時価評価による資本金計上は、資本充実の原則との関係でも、入管審査での説明においても脆弱である。
② 税務適格性の事前検証
非適格となった場合、消滅会社(または株式交換完全子会社)の含み益に課税が生じる。
株式交換の場合も、非適格であれば時価評価資産への評価損益課税がある(法人税法第62条の9)。
課税により純資産が目減りし、結果として3,000万円を割り込むリスクがあるため、簿価純資産・含み益の内訳・適格要件の充足可能性は最初に試算すべきである。
③ 資本金への全額計上を明記する
第2章のとおり資本準備金は算入されないため、合併契約書・株式交換契約書における資本金等増加限度額の配分、および増資の募集事項において、全額を資本金に計上する旨を明記する必要がある。
会計上「資本金と資本準備金に半分ずつ」という慣行的な処理をしてしまうと、要件充足に失敗する。
④ 資本金以外の要件
3,000万円だけを満たしても許可は下りない。
常勤職員1名以上の雇用(日本人・特別永住者・別表第二の在留資格者に限られる点に注意)、日本語能力(B2相当、常勤職員側での充足も可)、経歴要件(経営経験3年以上または関連学位)を別途満たす必要がある。
また改正後は、自宅を事業所と兼ねることは原則として認められない点、業務の大半を外部委託し日常的な経営活動が認められない場合は該当性を否定される点にも留意を要する(入管庁Q&A問19・問20)。
⑤ 公租公課・許認可の履行状況
更新時には労働保険・社会保険の加入状況および納付状況、源泉所得税・法人税・消費税・法人住民税・法人事業税の納付状況が確認される。
また事業に必要な許認可の取得状況を証する資料の提出が求められる。
合併により許認可を再取得する必要が生じる場合、この点は更新審査に直結するため、組織再編の設計段階で許認可の承継可否を確認しておくことが不可欠である。
必要書類の詳細は入管庁の在留資格「経営・管理」案内ページで公開されている。
⑥ 資本金3,000万円の副作用
資本金3,000万円になると法人住民税均等割が上がるほか、税務上の中小企業向け特例の適用範囲にも影響が及ぶ。
着地額は税理士と詰めておくべきである。
まとめ
経営管理ビザの3,000万円要件について、本記事の要点を整理する。
- 3,000万円は「資本金の額」で判定される。資本準備金・資本剰余金・利益剰余金は算入されず、純資産額でも事業用資産の総額でもない(法人の場合)
- 判定対象は申請人が従事する当該事業体である。複数会社の資本金を合算することはできず、いずれか1社が3,000万円以上である必要がある
- 資本金要件は1社につき3,000万円であり、経営者の人数分の加算は求められていない。ただし共同経営者が複数いる場合は、それぞれの経営活動の合理性・業務分担・報酬支払いが別途審査される
- 吸収合併をしても消滅会社の資本金は引き継がれない。資本金の増加額は株主資本等変動額(受け入れる正味財産の価値)の範囲内で合併契約により定める(会社計算規則第35条)
- 資本関係のない会社との株式対価の組織再編(支配取得)であれば、時価純資産を基礎に資本金を計上できる。これが外部資金なしで3,000万円を作れる法的根拠である
- 対価が全額現金の場合、また100%子会社の合併の場合、資本金は増えない
- 吸収合併と株式交換は同じ結果を得られるが、許認可・簿外債務・手続負担では株式交換が優れる。ただし子会社側の資本金は増えないため、別途増資を要する
- 会社法上の資本金計上と法人税法上の適格性判定は別の軸であり、両方を同時に設計する必要がある
組織再編は資本の「置き場所」を変える手段であって、資本を「創り出す」手段ではない。
しかし、既に存在する事業価値を適切に資本金へ転換することで、新たな資金調達を要さずに要件を満たせるケースは決して少なくない。
経過措置の期限は令和10年10月16日である。自社の純資産の状況、対象会社の有無、許認可の内容を踏まえた設計には、早期に着手されることをお勧めする。
当事務所は、M&A仲介業務と許認可デューデリジェンス、そして在留資格申請を一体的に取り扱っている。
経営管理ビザの3,000万円要件への対応、組織再編を用いたスキーム設計についてのご相談を承っている。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案における税務判断については税理士への確認をお願いしたい。

