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事業譲渡の許認可引継ぎ|M&A許認可承継の判断フローを解説

M&Aにおける許認可承継可否の判断フローを示す図解のイメージ

事業譲渡・合併・会社分割によるM&Aで許認可を引き継げるかを判断する7ステップの確認フローを行政書士が解説。

株式譲渡なら論点が発生しない理由、承継規定の条文の探し方と典型的な表現、業法ごとのパターン、管轄自治体・条例の考え方まで網羅します。

この記事でわかること

  • 株式譲渡であれば許認可承継の論点自体が発生しない理由
  • 許認可が「会社」ではなく「許認可を受けた者」に付いているという大前提
  • 業法の承継規定が分かれる3パターン(事前認可型・届出型・規定なし)
  • 承継可否を判断するための7ステップの確認フロー
  • 承継規定の根拠法令の探し方と、条文の典型的な表現
  • 承継後にどの自治体の条例・要綱を参照すべきか(事業所単位か法人単位か)
  • 建設業・旅館業・貨物運送業・宅建業・産廃処理業における具体的な扱い
  • 承継できないと判明した場合の3つの選択肢とスケジュール設計の勘所
目次

はじめに|条文を一つずつ当たる前に、まず「分岐」を知る

「事業譲渡でこの会社を買おうとしているが、持っている許認可はそのまま使えるのか」。

M&Aの現場でこの疑問に突き当たったとき、多くの人はまず対象の業法をインターネットで検索し、条文を読み込もうとする。

しかし業法は数百とあり、条文の作りも一つひとつ違う。

闇雲に条文を当たる前に、判断の出発点となる分岐を知っておいた方が、結論に早くたどり着けるし、社内やクライアントへの説明もしやすくなる。

結論から言うと、事業譲渡・合併・会社分割によるM&Aで許認可を引き継げるかどうかは、「その許認可の根拠となる業法に、承継を認める規定があるか」で決まる。

会社法上のスキームがどれであっても、業法側に規定がなければ、許認可は原則として引き継げず、譲受側で新規に取得し直す必要がある。

そして、この論点は株式譲渡であれば発生しない。

株式譲渡は許認可を持つ法人そのものを買うスキームであり、許認可の名義人が変わらないからだ。

つまり出発点は次の2段階に集約される。

  1. スキームは株式譲渡か、それ以外(事業譲渡・合併・会社分割)か
  2. それ以外の場合、根拠業法に承継規定があるか。あるとすれば事前認可(承認)型か届出型か

この記事では、この2段階の分岐を出発点として、実際の案件で承継可否を判断するための7ステップの確認フローを、条文の探し方や管轄自治体の考え方まで含めて解説する。

事業譲渡における業種ごとの許認可承継の可否については、「事業譲渡で許認可を承継できる業種・できない業種|早見表」を参照されたい。

大前提:許認可は「会社」ではなく「許認可を受けた者」に付いている

許認可の承継を体系的に理解するために、最初に押さえるべき原則が一つある。

許認可は、資産や契約のように当然に移転する財産ではなく、許認可を受けた法人(または個人)に紐づく行政処分である、という点だ。

行政法の世界では、これを許認可の一身専属性と呼ぶ。

ここで混乱が生じやすいのは、会社法上の「包括承継」という概念との関係だ。

合併や会社分割は、会社法上は権利義務を包括的に承継するスキームとされている。

そのため「合併なら許認可も当然に引き継がれるはずだ」と考えてしまいがちだが、これは正確ではない。

会社法が定めているのは、私法上の権利義務(資産・負債・契約)の承継だ。

行政処分である許認可の承継は、それとは別に、各業法が個別に定めているかどうかで決まる。

会社法の理屈と、業法(行政法)の理屈は別物であるというのが、以降のすべての議論の土台になる。

分岐①:株式譲渡であれば、許認可承継の論点は発生しない

株式譲渡で許認可が維持される理由

株式譲渡(株式交換や第三者割当増資による支配権取得も同様)では、対象会社の法人格そのものは変わらない。

株主が入れ替わるだけで、許認可の名義人である法人は同一のまま存続する。

したがって、株式譲渡では許認可は原則としてそのまま維持され、承継の可否を検討する必要はない。

許認可の観点だけを見れば、株式譲渡が最も安全なスキームである。

株式譲渡でも確認が必要なこと

ただし「論点が発生しない」のは承継可否についてであり、確認事項がゼロになるわけではない。

  • 役員・株主の変更届:
    多くの業法では、役員や一定割合以上の株主が変わった場合に変更届の提出義務がある。
  • 欠格事由:
    新たに就任する役員が業法上の欠格事由(一定の刑罰歴、過去の許可取消歴など)に該当すると、許可の取消事由になる。買手側の役員候補について、対象業法の欠格事由を事前に確認しておく必要がある。
  • 支配権変動そのものを届出・審査の対象とする業法:
    一部の業法では、株主構成の変動自体が届出や事前の審査対象となる場合がある。

これらは「承継できるか」ではなく「M&A後に許認可維持するために何をするか」の論点であり、本記事のテーマからは外れるため「株式譲渡で許認可は維持できるか|役員変更届と欠格事由を解説」で扱う。

分岐②:事業譲渡・合併・会社分割では、業法の承継規定がすべて

なぜ事業譲渡では承継の問題が生じるのか

事業譲渡は、事業を構成する個々の資産・契約・従業員を、譲渡契約で定めた範囲で個別に移転するスキームだ(特定承継)。

許認可は資産でも契約でもない行政処分であるから、事業譲渡契約に「許認可を譲渡する」と書いても、それだけで許認可が移転することはない。

合併・会社分割は会社法上は包括承継だが、前述のとおり、それは私法上の権利義務の話だ。

許認可の主体が別の法人に変わる以上、業法側の規定を確認しなければ承継の可否は判断できない。

業法の承継規定は3パターンに分かれる

対象の許認可の根拠業法を確認すると、承継の扱いは大きく次の3パターンに分かれる。

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パターン条文の典型的な表現実務上の意味
A
事前認可(承認)型
「あらかじめ〇〇の認可を受けたときは、譲受人は…地位を承継する」効力発生日(クロージング日)より前に監督官庁の認可を取る必要がある。審査期間がクロージング日程を左右する
B
届出型・当然承継型
「合併又は分割があったときは…地位を承継する」「遅滞なく届け出なければならない」認可は不要。事後(または事前)の届出で足りる
C
規定なし
承継に関する条文が存在しない原則として譲受側が新規に許認可を取得する。旧許認可の失効と新規取得の間に空白期間が生じるリスクがある

近年は、事業承継の円滑化を目的として、従来は合併・分割にしか承継規定がなかった業法に事業譲渡の承継規定を追加する改正が相次いでいる。

建設業法(2020年10月施行)では、改正前は事業譲渡・合併・分割のいずれについても承継規定が存在せず、譲渡・合併後又は分割後の会社は新たに許可を取り直す必要があった。

改正でこの3つの承継規定が一括して整備され、事前の認可を受けることで許可を承継できるようになった。

一方、旅館業法をはじめとする生活衛生関係営業の各法(2023年12月施行)では、合併・分割・相続については改正前から承継が認められており、2023年の改正で事業譲渡による承継が新たに加えられた、という異なる経緯をたどっている。

逆に言えば、同じ業法でも改正の前後で結論が変わっているため、経験則だけではなく最新の業法の確認が必須なのである。

許認可承継可否の判断フロー(7ステップ)

ここからは、実際の案件で承継可否を判断するための確認フローを順に解説する。

ステップ1:対象会社が保有する許認可を網羅的に棚卸しする

最初にやるべきことは、対象会社が現に保有している許認可をすべて洗い出すことだ。

当たり前のように聞こえるが、実務では「主たる事業の許認可」だけを確認して、付随的な許認可を見落とすケースが少なくない。

確認する情報源

  • 定款の事業目的、商業登記簿の目的欄
  • 許可証・登録証・免許証の現物(更新漏れ・有効期限の確認も兼ねる)
  • 監督官庁の業者名簿・閲覧制度(建設業許可、宅建業免許などは公開されている)
  • 対象会社の担当者へのヒアリング(本社が把握していない営業所単位の許認可がある)

見落としやすい許認可の例

  • 酒類販売業免許、古物商許可、たばこ小売販売業許可などの付随的な許認可
  • 営業所・店舗・工場ごとに取得している許認可(本社の許認可とは別に存在する)
  • 「業の許可」と「施設の許可」が別建てになっている業種(後述の産業廃棄物処理業が典型)

ステップ2:承継対象の事業に紐づく許認可を特定する

棚卸しした許認可のうち、実際に引き継ぐ必要があるものを絞り込む。

事業譲渡契約・吸収分割契約で定める譲渡対象事業の範囲と照らし合わせ、対象外の事業にしか紐づかない許認可は検討から外す。

このステップで重要なのは、買手の事業計画との照合だ。

譲受後に廃止する予定の事業の許認可まで承継しようとすると、不要な手続きとコストが発生する。

逆に、契約書上は譲渡対象に含まれていないが、実は承継対象事業の運営に必要な許認可(例:本社が一括取得している許認可)を見落とすと、クロージング後に無許可営業状態になりかねない。

ステップ3:各許認可の根拠法令(業法)を特定する

承継規定を探すには、その前に根拠法令を正確に特定する必要がある。

実務上は、次の順序で確認するのが効率的だ。

(1)許可証・登録証の記載を確認する

多くの許認可証には、発行の根拠となる法令名と条文が明記されている(例:「建設業法第3条第1項の規定により許可する」)。

現物が確認できれば、根拠法令はほぼ一意に確定する。

(2)e-Gov法令検索で逆引きする

現物がない場合は、許認可の名称(「旅館業」「一般貨物自動車運送事業」など)でe-Gov法令検索をかける。

通常は同名の業法が特定できる。

(3)下位法令まで追う

本法だけで完結せず、政令(施行令)・省令(施行規則)・告示に承継の要件や手続きが委任されているケースが多い。

本法の中に「国土交通省令で定めるところにより」といった委任文言があれば、その先の省令まで確認する。

(4)監督官庁の手引き・ガイドラインを確認する

各省庁や都道府県が公表している許認可の手引きには、根拠条文とあわせて運用上の解釈が示されている。

条文だけでは読み取れない実務の扱いを補完する情報源として重要だ。

(5)複合構造に注意する

一つの許認可が「本法+都道府県条例」という二階建て構造になっている場合がある。

本法に承継規定があっても、条例側で別途の届出義務や審査基準が上乗せされていることがあるため、本法の確認だけで終わらせない。

ステップ4:業法の中に承継規定があるかを確認する

根拠法令を特定したら、その中に承継規定があるかを確認する。

探し方のコツ:本文より先に目次を見る

承継規定は、多くの業法で独立した見出し付きの条文として置かれている。

条文本文を頭から読むよりも、まず目次(条文見出しの一覧)で次のキーワードを探すのが最も早い方法だ。

  • 「地位の承継」「承継」
  • 「譲渡及び譲受け」「事業の譲渡」
  • 「合併」「分割」「合併及び分割」
  • 「相続」(個人事業の承継規定。法人の承継規定と同じ場所に置かれていることが多い)

目次にこれらの見出しが見当たらない場合、その業法には承継規定が存在しない(パターンC)可能性が高いというシグナルになる。

条文の典型的な表現

承継規定が存在する場合、条文の文言からパターンA・Bのどちらかを判定する。

  • パターンA(事前認可型)の典型:
    「譲渡人及び譲受人が、あらかじめ当該譲渡及び譲受けについて…認可を受けたときは、譲受人は、当該譲渡及び譲受けの日に、譲渡人の…地位を承継する」
  • パターンB(届出型)の典型:
    「…合併又は分割があったときは、合併後存続する法人…は、…地位を承継する。この場合において…遅滞なく…届け出なければならない」

「あらかじめ」「認可(承認)を受けたときは」という文言があればパターンA、認可を要件とせず地位の承継と届出義務だけが書かれていればパターンBだ。

事業譲渡と合併・分割は別条文になっていることが多い

同じ業法の中で、合併・分割の承継規定と事業譲渡の承継規定が別の条文に置かれているケースがよくある。

後から改正で事業譲渡の規定が追加された業法では特にその傾向が強く、「合併の規定はあるが事業譲渡の規定はない」という業法も存在する。

スキームごとに該当条文を確認することが必要になる。

ステップ5:事前認可型・届出型・規定なしのいずれかを判定する

ステップ4の結果をもとに、当該許認可がA・B・Cのどのパターンに該当するかを確定する。

  • パターンA(事前認可型):
    認可申請の標準処理期間を確認し、効力発生日から逆算して申請時期を決める。効力発生日までに認可が下りなければ承継できないため、クロージング日程の設計に直結する。
  • パターンB(届出型):
    届出の期限(事前か事後か、効力発生から何日以内か)と添付書類を確認する。
  • パターンC(規定なし):
    譲受側での新規取得を前提にスケジュールを組む。新規取得の標準処理期間が長い業種では、効力発生日より相当前に申請を開始する必要がある。

ステップ6:条例・要綱への委任と、管轄自治体を確認する

法律・政令のレベルで承継規定の有無が判明しても、実際の審査基準・添付書類・手数料は、都道府県や市町村の条例・要綱に委任されているケースが大半だ。

ここは公開情報だけでは読み切れない部分であり、該当する自治体の担当窓口への事前相談が事実上必須になる。

「譲渡側」か「譲受側」か、どちらの自治体を見るのか

事前相談の前に整理しておくべきなのが、どの自治体の条例・要綱を参照するのかという問題だ。

これは「譲渡側か譲受側か」の二択ではなく、当該許認可が事業所(施設)単位のものか、法人単位のものかで判断する。

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許認可の性質参照すべき自治体典型例
事業所・施設単位その事業所の所在地を管轄する自治体旅館業、飲食店営業、産業廃棄物処理施設など
法人単位譲受側法人の主たる事務所の所在地により決まる宅建業免許(事務所の所在都道府県数で知事免許・大臣免許が決まる)など
事業所が移転・統合される場合承継後にその許認可の効力が及ぶ場所を管轄する自治体譲受後に営業所を統合するケースなど

事業所単位の許認可を「居抜き」でそのまま引き継ぐ場合、参照すべき自治体は譲渡側が従来管轄されていた自治体と一致する。

結果的に譲渡側の所在地を見れば足りるケースが多くなるが、それは「事業所が動かないから」であって「譲渡側だから」ではない。

事業所の移転や統合を伴う案件では、この区別が結論を左右する。

ステップ7:譲受側の欠格事由該当性を確認する

最後のゲートが欠格事由だ。

承継規定の要件をすべて満たしていても、譲受側(存続会社・新設会社・譲受人)に業法上の欠格事由があれば、承継は認められない。

確認対象は業法ごとに異なるが、一般的には次のような項目だ。

  • 役員(取締役・監査役・執行役員等)および一定の使用人の刑罰歴
  • 過去の許可取消歴と、取消しからの経過年数
  • 暴力団関係者の該当性
  • 法人自身の破産・解散歴

承継の認可申請では、これらの欠格事由に該当しないことを証する書類の添付を求められるのが通常だ。

買手側の役員構成は、承継可否の判断とセットで早い段階で確認しておく必要がある。

業種別の具体例:同じ「承継規定あり」でも中身は違う

ここでは、中小企業のM&Aで頻出する業種を例に、承継規定のパターンを確認する。

建設業(建設業法):事業譲渡・合併・分割いずれも事前認可型

建設業法では、2020年10月の改正法施行により、事業譲渡・合併・会社分割・相続のいずれについても、あらかじめ認可を受けることで建設業者としての地位を承継できる制度が整備された(建設業法第17条の2、第17条の3)。

ポイントは、認可は承継の効力発生日前に受けなければならない点だ。

国土交通省や各都道府県の手引きでは、効力発生日の30日前までの申請完了を求める運用が見られる。

承継後の許可の有効期間は、承継した建設業許可も元々譲受会社が持っていた建設業許可も共に、承継の日の翌日から5年間となる。

なお実務上選択することは考えずらいが当然、改正前と同様に新規許可を取得する方法も引き続き選択可能だ。

旅館業・飲食業などの生活衛生関係営業:2023年12月から事業譲渡も承認・届出で承継可能に

旅館業法では、従来から法人の合併・分割と相続については営業者の地位の承継が認められていたが、事業譲渡については譲受人が新たに許可を取得する必要があった。

2023年6月の法改正(同年12月13日施行)により、事業譲渡についても都道府県知事等の承認を受けることで営業者の地位を承継できる規定が新設された(改正後の旅館業法第3条の2)。

あわせて条文番号が繰り下がり、合併・分割の承継規定は第3条の3、相続は第3条の4に移動している。

同じ改正で、食品衛生法(飲食店営業)、公衆浴場法、理容師法、美容師法、クリーニング業法、興行場法などの生活衛生関係営業についても、事業譲渡による地位の承継が承認または届出で可能になった。

飲食店や美容室のM&Aは活発であるため、この改正の内容は押さえておく必要がある。

ただし、承継の前後で許可の内容は原則として変わらないため、譲受後に施設の増設などを行う場合は別途の変更届が必要だ。

また、同一性が認められないような大幅な変更を伴う場合は新規扱いになる点に注意する。

一般貨物自動車運送業(貨物自動車運送事業法):事前認可型、標準処理期間は1〜3か月

一般貨物自動車運送事業では、事業の譲渡し・譲受け、法人の合併・分割のいずれも国土交通大臣の認可が必要だ(貨物自動車運送事業法第30条)。

認可申請には譲受側の欠格事由非該当を証する書類、事業計画の新旧対照表、運行管理体制を記載した書類などの添付が求められる。

運輸局の標準処理期間は1〜3か月程度とされており、申請書の作成期間も含めると、効力発生日から数か月前には準備を始める必要がある。

宅地建物取引業(宅建業法):承継規定なし、合併で免許は失効

宅建業法には、事業譲渡・合併・分割による免許の承継規定がない。

免許を受けた法人が合併により消滅した場合は、廃業等の届出の対象となり、届出の時点で免許は失効する(宅建業法第11条)。

免許を持たない法人が宅建業者を吸収合併する場合や、事業譲渡で宅建業を譲り受ける場合は、譲受側で新規に免許を取得する必要がある。

宅建業免許は事務所の所在都道府県の数で知事免許か大臣免許かが決まる「法人単位」の許認可であるため、譲受側法人の事務所配置を前提に免許権者を確認する。

産業廃棄物処理業(廃棄物処理法):「業の許可」と「施設の設置許可」で扱いが分かれる

産業廃棄物処理業は、承継可否の判断で最も注意が必要な業種の一つだ。

しかも「業の許可」と「施設設置許可」を分けて考えないと、実態を見誤る。

業の許可(収集運搬業・処分業)について、事業譲渡・合併・分割による承継規定はない。

譲受側が新規に許可を取得することが原則だ。

収集運搬業は施設を要しないため、標準処理期間はおおむね2か月で、新規取得のハードルは高くない。

処分業の許可申請自体も制度上封じられているわけではなく、標準処理期間はおおむね6か月とされる。

ただし、処分業のうち焼却施設・大規模な破砕施設・最終処分場など、廃棄物処理法第15条が定める「産業廃棄物処理施設」に該当する規模の施設を伴うものは話が変わる。

この規模の施設を新設するには、業の許可とは別に施設設置許可が必要であり、生活環境影響調査(ミニアセス)・住民説明・都道府県との事前協議を経なければならない。

このハードルが非常に高く、環境省の実績データでは、最終処分場の新規設置許可は全国でも年間十数件程度にとどまる。

事実上、ゼロから施設を新設して処分業に新規参入することは極めて難しい。

一方、処理能力が一定規模未満の破砕施設のように施設設置許可を要しない規模の中間処理であれば、業の許可の新規取得だけで足り、実際に年間数百件規模の新規許可が出ている。

「新規取得が事実上不可能かどうか」は、処分業全体で一律に決まるのではなく、対象の処理が施設設置許可を要する規模かどうかで判断する必要がある。

焼却施設や最終処分場などの産業廃棄物処理施設の設置許可については、施設を新設せずに済ませる2つの承継的な手段が用意されている。

合併・分割の場合は、あらかじめ認可を受けることで施設設置者の地位を承継する(廃棄物処理法第15条の4による第9条の6第1項・第2項の準用)。

事業譲渡(施設の譲受け)の場合は、条文上は「地位の承継」ではなく、買手が都道府県知事等の譲受け許可を受けなければならないという書き方になっているが(同条)、効果としては同じ物理的な施設をそのまま使い続けられる点で変わらない。

事業譲渡で施設を取得した場合、その施設を使い続けられるのか

買手が一番気にするのはここだ。

答えは、買手が譲受け許可を受けることを条件に、同じ施設をそのまま使い続けられる。

ポイントは、この譲受け許可の審査の中身が、ゼロから施設を新設する場合の設置許可とはまったく違うことだ。

実際の申請書類(横浜市の手引きで確認できる。なお、業法の全体感については環境省の手続き案内に記載)を見ると、求められる添付書類は契約書の写し、維持管理に関する技術的能力を証する書類、資金調達計画、役員・株主が欠格事由に該当しないことの誓約書など、買手側の資力・技術力・欠格事由を審査するものが中心になっている。

施設の新設時に必要となる生活環境影響調査(ミニアセス)や建築基準法第51条の許可(都市計画審議会の審議)は求められない。

つまり、施設の立地・構造・環境影響についての審査は、売手が設置許可を取得した時点ですでに完了しているという前提に立ち、譲受け許可では「この施設を、この買手が引き続き適正に維持管理できるか」という買手側の適格性だけを見る。

これが、ゼロから施設を新設する場合との決定的な違いであり、施設設置許可を要する規模の処分業においてM&Aが事実上ほぼ唯一の参入手段になっている理由でもある。

ただし、2点注意が必要だ。

  • 業の許可(第14条許可)は別途新規取得が必要:
    譲受け許可はあくまで施設(第15条許可)についての手続きであり、産業廃棄物処分業を行うための業の許可は事業譲渡による承継規定がないため、買手側で別途新規に取得する必要がある。もっとも、この業の許可の審査も、すでに適法な施設を保有している前提であれば、施設の立地・環境影響を再度審査するものではなく、業を行う者としての適格性(資力・欠格事由等)の確認が中心になる。
  • 施設・処理用地に変更が生じる場合は別枠の手続きになる:
    横浜市の手引きにも「譲受け(借受け)に伴い産業廃棄物処理施設及び処理用地の設定等に変更が生じる場合、別途変更の手続き等が必要」と明記されている。買手が施設を移設・増設したり処理品目を変更したりする場合は、この軽い譲受け許可の枠を超え、変更許可(内容によっては新設に近い審査)が必要になる。

施設設置許可を要する規模の処分業では、新設がほぼ不可能である以上、この譲受け許可(または合併・分割の地位承継)が使えるかどうかが、M&Aの成否そのものを左右する。

つまり、施設設置許可を要する規模の産廃処理業者の事業譲渡では、「施設(設置許可)は譲受け許可により事実上継続できるが、業の許可(収集運搬業・処分業)自体は新規取得」という組み合わせになる。

ステップ1で「業の許可」と「施設設置許可」を分けて棚卸しし、対象の処理が施設設置許可を要する規模かどうかを見極めておかないと、この区別を見落とす。

具体例のまとめ

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業種事業譲渡合併・分割パターン
建設業事前認可で承継可事前認可で承継可A
旅館業・飲食業等(生衛業)承認または届出で承継可(2023年12月〜)承認または届出で承継可A/B(業法により異なる)
一般貨物自動車運送業認可で承継可認可で承継可A
宅建業承継不可(新規免許)承継不可(新規免許)C
産廃処理業(業の許可)承継不可(新規許可。ただし施設設置許可を要しない規模なら新規取得は容易)承継不可(新規許可)C
産廃処理施設(設置許可・15条施設)譲受け許可で継続利用可(環境アセス再実施は不要)事前認可で地位承継可A

このように、同じ「承継規定あり」でも認可・承認・届出のいずれかで手続きの重さは大きく異なり、同じ業種の中でも許認可の種類によって結論が分かれる。

30業種の一覧は業種別マトリクス記事で、各業法の条文と手続きは業法別の個別記事で別途解説する。

承継できない場合の選択肢

ステップ5でパターンC(規定なし)と判明した場合、あるいはパターンAで認可がクロージングに間に合わない場合、選択肢は次の3つになる。

(1)スキームを株式譲渡に変更する

最も根本的な解決策だ。

株式譲渡であれば許認可の承継論点は消える。

事業譲渡を選んでいた理由(簿外債務の遮断、不要事業の切り離しなど)を、株式譲渡+事前の事業整理や表明保証で代替できないかを検討する。

(2)会社分割を挟む

承継したい事業と許認可を、あらかじめ会社分割で新設会社に切り出し、その新設会社の株式を譲渡する方法だ。

ただし、会社分割による許認可の承継可否も業法次第であるため、ステップ4で会社分割の承継規定を確認する必要がある。

(3)新規取得を前提に空白期間を設計する

新規取得の標準処理期間から逆算して、効力発生日より前に譲受側で許認可を取得しておく。

許認可によっては、譲受側が営業実態を持たない段階で申請できるかどうか(営業所・人員・設備の要件をクロージング前に満たせるか)が問題になるため、監督官庁への事前相談が欠かせない。

スケジュール設計で押さえるべきポイント

許認可の承継可否は、M&Aプロセスの中では基本合意後、デューデリジェンスの段階で本格的に検討されるのが通常だ。

しかし、パターンAの認可やパターンCの新規取得には数か月単位の期間がかかるため、この検討が遅れるとクロージング日程そのものが動く。

  • 意向表明・基本合意の段階で、対象会社の主要な許認可がどのパターンに該当するかの当たりをつけておく
  • デューデリジェンスの初期に7ステップの確認を完了し、認可申請・新規申請の着手時期を確定する
  • 事前認可型の場合、効力発生日の変更が認可申請の出し直しにつながらないよう、日程に余裕を持たせる

まとめ

  • 許認可は許認可を受けた者に付く行政処分であり、会社法上の包括承継とは別に、業法の承継規定の有無で承継可否が決まる
  • 株式譲渡であれば承継の論点は発生しない。事業譲渡・合併・会社分割では業法の確認が必須
  • 業法の承継規定は「事前認可型」「届出型」「規定なし」の3パターン。近年の改正で結論が変わっている業法も多い
  • 判断は7ステップ(棚卸し→対象特定→根拠法令特定→承継規定の確認→パターン判定→条例・要綱と管轄自治体の確認→欠格事由)で進める
  • 同じ業種でも許認可の種類によって扱いが分かれる。産廃処理業の「業の許可」と「施設の許可」が典型

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この記事は、建設業法第17条の2・第17条の3(各都道府県の審査基準・手引き)、旅館業法第3条の2〜第3条の4(改正後、厚生労働省パンフレット)、貨物自動車運送事業法第30条(国土交通省地方運輸局の手続案内)、宅地建物取引業法第11条・第7条、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条・第15条の4(環境省申請・届出等手続案内ほか)をもとに、M&A実務と許認可実務の両方に携わる行政書士が執筆しています。個別の案件については、必ず最新の法令と管轄自治体の運用をご確認ください。

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